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NO.165

 

 

「私の授業は能動的な学習を喚起する授業?」

*2017年度年間テーマ:
「能動的な学習を喚起する授業づくり」


06/09/2017

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     PEKA (ペダゴジーを考える会) News Letter no.165
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*PEKA活動資金カンパ口座
三菱東京UFJ銀行 板橋支店
普通3591136
名義:ペカタントウ ウザワケイコ

郵便振替口座
00120-1-764679
加入者名:PEKA

 

■□■ 次回例会のご案内 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

日時 : 9月16日(土)14:30 〜 17:30
会場:アンスティチュ・フランセ 東京(飯田橋)107教室
(エントランスホール正面の受付脇の通路を通り抜けて、奥の方にあるラボ教室です)
アクセス:
http://www.institutfrancais.jp/tokyo/about/contact/

*9月の例会テーマ :
「私の授業は能動的な学習を喚起する授業?」
9月の例会の目的は、「能動的な学習」という視点から参加者が自身の授業を振り返り、どのような授業づくりをしているかを紹介することです。「能動的」という言葉について考え、ある程度明確なイメージを持って参会して下さい。
*2017年度年間テーマ:
「能動的な学習を喚起する授業づくり」

* どなたでもご参加いただけます。参加費は無料です。


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☆☆ 2017年度例会日程 ☆☆☆☆☆
以下の通りです。メモをお願いします。

9月16日(土)、 10月21日(土)、 12月16日(土)、2018年 2月17日(土)(24日(土)にずらす可能性もある)

いずれも土曜日の14時30分 〜 17時30分ですが,会場の都合により時間が変更になる可能性があります。
また,開催場所については,例会ごとに案内をご確認ください。

 

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■■■【2017/6/17例会報告】┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏
//////////【2017/6/17 14h30-18h @明治大学(駿河台校舎)】

6月例会テーマ:APPROCHE ACTIONNELLE
■「アクティブラーニング」は昨今、日本の教育界においてキーワードのひとつとなっている。フランス語教育におけるAPPROCHE ACTIONNELLEはこれに当てはまるのか、あるいは同じものなのか。
6月17日のPEKA(アトリエ形式、2人のANIMATRICE)では、この問題を、APPROCHE ACTIONNELLEの理念の下に書かれた教科書も参考にしながら検討した(なお本ニューズレターでは、一部補足情報を追加した)。

1)APPROCHE ACTIONNELLEという表現について

外国語学習における用語(フランス語)としてはAPPROCHE ACTIONNELLEおよびPERSPECTIVE ACTIONNELLEの二種類がある。
それぞれ教授(ENSEIGNEMENT)─学習(APPRENTISSAGE)の「取り組み方」ないし「視点・視野」を指す用語である。

2)歴史的背景:多様な言語使用者が交流するEU

◇この用語が使われるようになった歴史的背景は、EUという国家横断型の体制の枠内での人々の交流の仕方にある。
いわゆる「ヨーロッパ市民」の概念(理念)のもとで多様な言語使用者が交流する中で、彼らの対話能力と相互理解能力の2点が求められた。

◇このような歴史的状況を視点として、1980年代後半から欧州評議会(CONSEIL DE L'EUROPE)が外国語教育における「教授」と「学習」のための枠組みを模索し始める。その結果として刊行されたのがCECRL(CADRE EUROPEEN COMMUN DE REFERENCE POUR LES LANGUES ヨーロッパ言語共通参照枠)である。この枠組みを実際の教育現場に適用し、時代の要請に答える教育を実現するために採用された概念がAPPROCHE / PERSPECTIVE ACTIONNELLEである。

3)APPROCHE ACTIONNELLEに基づく授業:理念、狙い、授業形式

◇この視点ないし取り組み方において、学習者は「社会の中で具体的に行為する個人」(L'APPRENANT EST UN ACTEUR SOCIAL)として学習し、教員もこのような捉え方に基づいて授業を組むことになる。そこでは、言語は「具体的な社会活動を行う手段」として扱われることになる。

◇APPROCHE ACTIONNELLEで獲得が求められる能力は、学習言語を使って社会の中で何らかの位置を占めることができる能力(SAVOIR-ETRE)であり、これはAPPROCHE COMMUNICATIVEにおける「挨拶ができる」、「買い物ができる」等々の「〜ができる」能力(SAVOIR-FAIRE)とは区別される。

◇前掲のとおり、PERSPECTIVE ACTIONNELLEに立って授業を行う場合、学習者たちは各個人の文化を有しながら「クラス」という「ひとつの社会」を構成し、その中で活動するACTEURS SOCIAUXであると見なすことができる。
また学習者たちがこの社会の中で学習中の言語(=この社会におけるSAVOIR-ETREの道具)を実際に使って活動できる環境を作ることが教員には求められる。
それゆえに学習者だけでなく教員もまた授業中は学習言語を使ってコミュニケーションすることが必須である。

◇このことを実現するために授業で設定されるのがTACHEである。TACHEとは、教科書の各課で最終的に学習者たちが共同で「達成すべき(A ACCOMPLIR)」(CECRLの表現)課題である。学習者たちはそれまでに学習してきたことを使って共同でこのTACHEを達成することが求められる。
TACHEはAPPROCHE ACTIONNELLEの要をなしており、この点でAPPROCHE ACTIONNELLEは他のAPPROCHEと明確に区別される。

◇例えば、APPROCHE COMMUNICATIVEでも、自己紹介、メール・手紙の書き方、買い物の仕方など具体的なコミュニケーションを通じて達成すべき目標が設定されていた(この目標はSAVOIR-FAIREのレベルに属する)。
それ以前のアプローチでも、穴埋め問題、ミニゲーム等々のクリアすべき目標が設定されていた。APPROCHE ACTIONNELLEのTACHEは、言わばこれら複数の目標(=SOUS-TACHES)を組合せてクラス全体規模での活動が可能になるように設定されるより高次元の目標である。

◇例えば、アトリエで参照した教科書のひとつであるLATITUDES 1(初版2008年)には、クラスメンバーひとりの誕生会を全員で企画するというTACHEの良例があった(MODULE 2, UNITE 6)。学習者は、フランス語を用いて企画することになるが、その過程で、日付の言い方、考えていることのアウトプットの仕方、好き嫌いの表現の仕方、メンバーの性格描写(個人の文化を知ること)、メッセージカードの書き方等を実践しながら(言い換えるならばSOUS-TACHESを一つひとつ達成しながら)学習することができる。

4)教科書検討

◇アトリエでは、特にTACHEに着目しながら、またその他の教科書の達成目標部分との比較も交えて、NOUVEAU ROND-POINT1(2011)の課構成を参加者全員で検討した。
達成目標部分の比較では、この部分の名称(見出しタイトル)、そこでの「指示(CONSIGNE)」に着目した。見出しタイトルに関しては、以下のような違いが見られた。
NOUVEAU ROND-POINT1 → <TACHE CIBLEE>
LATITUDES 1 → <TACHE FINALE>
FESTIVAL 1 → <A VOUS...>

◇例会で取り上げられたNOUVEAU ROND-POINT1のTACHE部分は上記見出しタイトルの明瞭さに加え、両面見開きA3版を使って、TACHEを達成する「段取り(DEROULEMENT)」がおおよそ5段階で明確に指定されており、また一つひとつ段階の作業人数(DYNAMIQUE)も想定し易いかたちで指示がなされていた。
LATITUDES 1では、見出しタイトルは明解であるものの、TACHE FINALEの具体的な指示は各課の最後のページで示されるのみであり、段取りが把握しにくいふしがある。

◇他方でFESTIVAL 1では、各課(4頁構成)の最後の4頁目にある指示で、以下の「指示(CONSIGNES)」が明示する通り、学習者がそれまで学習してきた表現をアウトプットすることに重きが置かれており、この学習内容がクラスという社会の中で果たす役割(例えばクラスのメンバーそれぞれの性格を皆で共有し、その後の授業でもこの共有内容を踏まえてTACHEに取り組む等の役割)が明確になっていないことが確認された。

*FESTIVAL 1からのCONSIGNESの引用(この部分は3段階からなる。):
1. TROUVEZ UN CONTEXTE POUR LES EXPRESSIONS SUIVANTES. VOUS POUVEZ EXPLIQUER LA SITUATION AVEC DES MOTS OU AVEC DES GESTES […]
2. JEU DE ROLES
QUELQU'UN VIENT VOUS RENDRE VISITE. VOUS LE RECEVEZ, VOUS LUI PROPOSEZ QUELQUE CHOSE A BOIRE OU A MANGER.
3. FAIRE AU TABLEAU LE PLAN D'UN APPARTEMENT (p. 69)

1の第二文VOUS POUVEZ EXPLIQUER […]が象徴的に示す通り、このCONSIGNESはSAVOIR-FAIREの段階、すなわちAPPROCHE COMMUNICATIVEの段階のものである(「状況を説明できる」、「来客に対応できる」、「道順を説明・理解できる」)。
無論、このCONSIGNESをもとにPERSPECTIVE ACTIONNELLEの視点に立った授業を行うことも可能である。
ちなみに、教科書冒頭にある「教科書の使い方」では<A VOUS...>の部分を以下のように説明している。
“A VOUS... TRAVAIL DE PRODUCTION ORALE ET ECRITE. ON INVITE L'APPRENANT A UTILISER CE QU'IL A APPRIS POUR REALISER UNE TACHE : ETABLIR UN PROGRAMME TOURISTIQUE, REDIGER UN CV, CHOISIR ENTRE DEUX OFFRES D'EMPLOI…” (p. 5)
確かに<POUR REALISER UNE TACHE>という表現は使われているものの、これはAPPROCHE ACTIONNELLEのそれとは区別される。

◇参考までに例会で参照されたLATITUDES 1のCONSIGNEを引用する(この誕生日会企画というTACHEについては本稿前掲の説明を参照のこと):
VOUS VOULEZ OFFRIR UN CADEAU.
DISCUTEZ PAR GROUPES DE CINQ ETUDIANTS.
POUR QUI EST LE CADEAU ?
POURQUOI VOULEZ-VOUS OFFRIR CE CADEAU (POUR UN ANNIVERSAIRE, POUR REMERCIER…) ?
COMBIEN DE PERSONNES OFFRENT LE CADEAU ?
COMBIEN D'ARGENT VOUS AVEZ ?
QUELLES IDEES DE CADEAUX VOUS AVEZ ?
DONNEZ VOTRE AVIS SUR LES IDEES DES AUTRES ETUDIANTS. CHOISISSEZ VOTRE CADEAU. (p. 73)

◇NOUVEAU ROND-POINT 1では、<TACHE CIBLEE>の中でも最後のPRODUCTIONへと至る段取りが意識的に作られていた。A3版見開き二面の分量のTACHEなので引用は省略するが、段取りの特徴としては、作業モデルの提示を何回も行う、PLAN DE TRAVAILをチャート式で提示する等である。
(興味深い点として日本の多くの教科書ではページの主要部分を占める各種活用表が、あくまで補足説明・付け足しという体裁でページの隅に置かれていたことが挙げられる。)

◇また各課のTACHEひとつひとつが教科書全体の中でどのような役割を持つかという点でも、有効な教科書構成となっていることが確認された。
例えば例会で取り上げられたTACHEは、二人(BINOME)以上の小グルーブで相手の好き嫌い(PREFERENCE)を中心としたインタヴューを行い、最後にその「好き嫌いインタヴュー」の結果を掲示してクラス全体で共有する(MISE EN COMMUN)という段取りになっている。
このTACHEは全12UNITES(課)から構成される同教科書の第4課に位置するTACHEであり、これを達成するためには第3課までの学習内余を総動員する必要がある(なお第5課では第4課までの学習内容を応用させて、VACANCESの旅行を皆で計画するというTACHEが設定される)。
このようにNOUVEAU ROND-POINT 1は、学習進度・PERSPECTIVE ACTIONNELLE双方の視点いずれからも、意識的かつ効果的な教科書構成となっている。

*参考までに目次で挙げられているUNITE 5までのTACHES FINALESを引用する:
UNITE 1 (POINT DE DEPART) : NOUS ALLONS REPONDRE A UN QUIZ POUR DECOUVRIR LA LANGUE FRANCAISE ET EXPLORER NOTRE MANUEL.
UNITE 2 (PRISE DE CONTACT) : NOUS ALLONS ELABORER LE FICHIER DES ELEVES DE LA CLASSE POUR MIEUX NOUS CONNAITRE.
UNITE 3 (POINTS COMMUNS) : NOUS ALLONS FORMER DES GROUPES SELON LES AFFINITES DE CHACUN.
UNITE 4 (LA VIE EN ROCK) : NOUS ALLONS REDIGER L'INTERVIEW D’UN CAMARADE DE CLASSE.
UNITE 5 (DESTINATION VACANCES) : NOUS ALLONS PLANIFIER UN VOYAGE DE CLASSE SELON NOS PREFERENCES ET NOS INTERETS.

◇NOUVEAU ROND-POINT 1は上記の点でかなり練られた教科書であり、教科書の効果的な活用を補助する教員用マニュアルも充実していた。だが、NOUVEAU ROND-POINT 1はその理念が教員にきちんと理解されていなかったり、また理解されていても実際に使うことが困難であったりしたために、充分なかたちで利用されなかった(日本のみならずフランスでも)。
ちなみに、NOUVEAU ROND-POINT 1に限らず、どのような教科書であっても、その要をなす理念が理解されていないと、授業内で混乱が起き、また「使いにくい」というイメージが生じてしまうことから真価を発揮することなく使われなくなってしまう可能性を持つ。

◇特にAPPROCHE ACTIONNELLEは教科書の形で再現することが難しく、これを主軸とする教科書は作りにくい。
すなわち、一方でACTIONNELLEとしてのステップを着実に踏みながら、他方で語彙力の向上のためにフランス語表現の材料集の要素もしっかりと盛り込む必要がある。さらにTACHEの狙いをしっかりと定めること(BIEN CIBLER)の難しさもある。
TACHEの達成のためには複数のCONSIGNESもまたその狙いが明確に定まっており、簡潔明瞭に表現されている必要がある。だが、このようなCONSIGNESを作ることは難しい。
(例会ではここで改めて教科書という教具の要点が二つ確認された。すなわち教師を助ける重要な[1]道具である点、それがないと授業で抜け落ちるものが増え得るという[2]網羅性の二つである。)

◇前掲例の誕生日会企画(LATITUDES 1)というTACHEが明示するように、APPROCHE ACTIONNELLEではTACHEをしっかりと限定して設定することが要である。これによってはじめてDOCUMENTS AUTHENTIQUESも授業における明確な役割を持つものとして導入することが可能になり、さらにメンバー全体の交流を通じて各個人の有する文化を共有することも可能となる(これはINTER-CULTURELLEな活動であると言える)。
形容詞ACTIONNELLEは、学習中の表現を使ってみる(アウトプット)だけでなく、クラス=社会内の言語化されない様々な情報を共有し、それらを前提として参加者たちが相関的に動くことを意味している。

5) APPROCHE ACTIONNELLEとACTIVE LEARNING:社会性と能動性

◇例会では、APPROCHE ACTIONNELLEとしばしば混同される、英語圏のACTIVE LEARNINGとの比較も行われた。
能動的学習とも訳されるACTIVE LEARNINGは曖昧な概念であるが、その核心は「受講者の学習における能動性を高める授業を行うこと」にある(教員→学習者という一方通行のインプット型学習に対してアンチテーゼとして設定された概念である)。
前述のAPPROCHE ACTIONNELLEの説明を踏まえると、APPROCHE ACTIONNELLEを踏まえた授業は必ずACTIVE LEARNINGとなり得るが、ACTIVE LEARNINGの授業がすべてPERSPECTIVE ACTIONNELLEに立っているとは限らない(例えばCOMMUNICATIVEな授業や穴埋め問題を多用する授業も学習者が何らかの能動性を持つならばACTIVE LEARNINGであると言える)。

◇ANIMATRICEのひとりの興味深い指摘によれば、日本におけるACTIVE LEARNING(2012年の中教審・大学教育改革の答申の中で採用)の目的は、小・中・高校(大学も含み得る)での能動的人間の「形成」にあり、これはAPPROCHE ACTIONNELLEが能動性をすでに持っている学習者を「前提」としていることと著しい対照をなしている。
つまりAPPROCHE ACTIONNELLEの目的は、学習者の既得の能動性を発揮し易い授業環境を整えることにあり、能動性そのものを開発することにあるのではない。
ちなみに例会では話題にならなかったが、ACTIVE LEARNINGの授業においては、先の人格形成という目的のもと、学習者の参加率に加えて「モチベーションをいかに高め、維持するか」がENSEIGNANT側の重要課題になる。このような授業において重視されるのは、基本的にはENSEIGNANTがいかにAPPRENANTの能動性を養うかという二項関係である。したがって、この二項関係に加えAPPRENANTS間の交流が核となるクラス=社会は二次的なものとなる。

◆まとめ

例会で話し合われたことは次の二点に還元できるだろう。第一に、APPROCHE ACTIONNELLEをベースとする授業ではTACHE BIEN CIBLEEが本質的要素となる。TACHEは、APPRENANTS全員を、クラスという社会で活動するACTEURS SOCIAUXと見なした上で設定されるものである。第二に、どのような学習者にも固有の能動性がすでに備わっていると見なす必要がある。ENSEIGNANTの役割は、この固有の能動性が発揮され易い環境を整えることであり、教科書はその補助としての役割が期待される。
(Y.I.)



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