Pékaトップページ       過去ニューズレターMENU    

 

NO.92

 


Pédagogieを考える会 NEWSLETTER 92
10/09/05

教材分析をめぐる例会2回目の報告をお届けします。
新しいテーマの初回にはやや緊張した雰囲気がありましたが、2回目はより活発な意見交換が行われました。

例会報告1

私たちは、ふだんどんな規準で教科書を選んでいるのだろう? 
その2

田中幸子さん

テーマ:教材

1. 批評の批評

 はじめに、2枚のプリントが配られました。1枚目は前回の報告会で出た意見をグループごと(グループ1〜5まで)にまとめたもの、2枚目は教科書分析をする際のチェックポイントをまとめたものです。
まず、1枚目のプリントを参照に、「この意見は、何が良いと考えているのか?」とそれぞれの意見に対する裏側を探りました。

○「クラスのレベルに合わない」について:
-「レベルに合っていないのであれば、学生のレベルに照準してテキストを選べばよい。」
-「学生のレベルではなく、先生のレベルに合っているかどうかでは?」
-「教師が自分色に染めたいというのが“レベル”?」
-「大学間における生徒の偏差値に関係ない」
-「ノートととりなさい、単語の意味を調べてきなさいという指導をとればいい」

○「使いやすい」という言葉の意味について:
-「使いこなしやすい(料理しやすい)こと?または、生徒の反応が良いこと?しかし、教材のもつ難点を乗り越えることも必要かもしれない。」
-「何が出来る様になったのかが分かるものは良い材料である。例えば、アメリカのテキストは、チェックポイント(文法・語彙など)が付いている。」
-「フランスで作られた教材はこうだという固定観念が根付いているのではないか?」

○「ビデオがあったほうが使いやすい」について:
-「ビデオは学生が集中して理解しやすい。」
-「出来るだけネイティブのものに触れさせたいという願い?」


こうした意見を出し合った後、結局完璧な教材などはないのだから、「いい教材」とは何かよりも、教材をどのように料理をしていくかの方が大事というコンセンサスができたように思います。


2. ポジティブな批評練習

 フランスの出版社が作った教材を用いて授業を行っている先生方は、この例会参加者の2/3を占めていました。
 次に行った作業は、フランスで作られた4つのméthodes, Initial,Taxi !,Studio60,Festivalの中から、 使ったことのない教材についていいところを探す、というもの。各教材ごとに2グループ、計8グループが、担当教材のいいところを「ほんと、この教科書は、すごい!今まで見たなかで最高!! だって〜が、〜なんです。」という風に発表するために分析する、というのがconsigneです。教材分析をする側の態度として、「絶対こうあるべきだ」、「この教材は全くダメだ!」等、教材を使う側がもつ願いは各々にありますが、その願いをネガティブな方向にもっていくのではなく、褒め倒す勢いで、ポジティブな方向にもって行こう!ポジティブなcritiqueをすることによって、自分たちのふだんの教材分析critèresを客観視できるかもしれない、問題があると思われる教科書でも、他の場所で使ったら問題ないかもしれないと考える柔軟性を持とう、教材分析のための新しい視点を探そうという提案でした。
 以下が、この分析作業のあとにあがった各教材の「いいところ」です。

Initial:日本の出版社の教科書に近いんですよ。
=洋書を使ったことのない先生も怖がらずに使える。/カラーが鮮やかだが、重くない印象。/まとめがついていて達成感がある。/身近な話題が取り上げられている。/別冊として単語帳がついていて、文法項目の目次がある。・・・

Taxi !:項目別レイアウトがパターン化されているんですよ。
=会話→表現のまとめ→文法という流れを授業に組み込みやすい。/多色刷りだが、色の数が決められていて、見やすい。/内容がつまらなかったleçon でも、次は面白いかも・・・と期待を持たせる。

Studio60:学ぶ楽しさがあって、これからフランスに行こう!という気分になり、フランス語学習に対するモチベーションが上がるんですよ。
=ビジュアル資料が多い。/リスニング→内容に当てはまる絵を選ぶ形式。/字がほとんどない。/コミュニカティブ。/既出の文法事項をまとめたものが付録としてついている。

Festival:レイアウトがすっきりしていて、大人っぽいんですよ。
=品詞別に単語リスト。/地図が多い。(パリ20区やメトロの路線図など)/単語インデックスに、アラビア語、英語、中国語がある。
(K.N)
    
 短時間の話し合いでしたが、様々な角度からの活発な意見が交わされました。次回も引き続き洋書のテキストを取り上げ、実際に使用した経験者の方の意見を交えて、更に詳しく見ていくことになりました。今回はポジティヴな視点からの分析でしたが、実際に使用した際のネガティヴな面も取り上げ、そうした問題や使いにくさを、どのように克服し、どのようにテキストを料理したかについて考察を深めていく予定となりました。

上へ


例会報告2

フランスの出版社の教材を扱ってきた
経験から

高田智子さん(伸興通商)

テーマ:教材


 洋書テキストの分析に続いて、後半は洋書テキストを取り扱っている業者の方のお話を、コーデイネーターとのインターヴュー形式でうかがいました。

Q. 高田さんの仕事内容は?

−フランスだけでなく、英語やドイツ語、スペイン語の現地で作られているテキストを大学や書店に販売しています。その他テキストも作っています。日本語版を作っているので、作る側の立場としても教員の方との接触もあります。

Q. 洋書と言うことで使いにくいという先生もいますが、洋書テキストの良さは?

−本国で作られているので、document authentiqueが多い、生の素材が多いことです。教授法や目的をはっきりさせた上で、教材作成者もチームで時間をかけて作っています。使いにくさとしては、ボリュームが多く、日本のカリキュラムに合っていないこと。生の部分で先生が対処しにくいこともあると思います。日本の大学での第二外国語のカリキュラムが変わり、授業時間数が減りました。こうした日本の事情をアピールし、それが反映して作られたのがInitial。それ以降出版社がこうしたニーズを知り、Taxi! などが刊行されました。とはいえ、洋書テキストのマーケットは世界市場なので、日本でのテキストより豪華でカラフルに作ることが出来ます。

Q. Initialのように日本のマーケットに合うものが出てきたということですが、移り変わりの傾向は?

−出版のサイクルが短くなり、受け取る側も、出版されたものを見て、使って、慣れるのに3年ぐらいかかりますが、慣れた頃にはすぐ新しいテキストが出版されるという状況です。テキストはマーケットを見て傾向が変わりますが、世界的にフランス語教育のマーケットは第一にヨーロッパです。しかし全世界的に第二外国語の時間数が減っているので、少ない時間数に合わせたテキストが出てきました。日本でも第二外国語で洋書が使えるようになってきたのは良い傾向だと思っています。

Q. Pékaの先生への要望は?

−これまでは学会でプレゼンテーションしてきましたが、最近は関心の薄れを感じます。テキストの使い方を知ってもらえれば使ってもらえると思っています。先生方とのコミュニケーションをとりながら、プレゼンテーション出来るのではないかと。出版社の者が日本に来たときにPékaに参加して意見交換の場になれば、外部の空気も入るのではないでしょうか。
―第二外国語の現状が良くありません。私たちは現場の先生方に頑張って頂くしかありません。楽しくフランス語を学べるようにしてもらいたいです。


参加者からも質問やコメントが出て、非常に広がりのあるインタビューになりました。世界マーケットの動向など、普段意識したことのない洋書テキストの背景を知ることが出来、大変興味深いお話でした。
(M.T)

上へ

Péka Info

 フランス語教育学会秋季大会

SJDFの秋季大会が、次の日程で開催されます。
10月1日(土)14h-18h30: 大阪市立大学文化交流センター(大阪駅前第2ビル6F)
10月2日(日)10h30-16h: 関西大学千里山キャンパス

シンポ:≪ Comment promouvoir l'étude du français en Asie ? ≫,
「3つのフランス語試験(仏検, DELF/DALF, TCF)」,
「グループダイナミクスの一般的な理論と実践ーフランス語教育への応用の模索」など。
詳細はhttp://wwwsoc.nii.ac.jp/sjdf/


次回のPékaは...


9月24日(土)
14:30-17:20
明大駿河台校舎12号館12階
2121教室(AV1教室)


教材分析のさまざまなcritères

  司会: 根岸純さん
     常盤僚子さん
     黒木朋興さん


 Pékaのメンバーの多くはフランスで作られた教科書の使用経験がありますが、フランスの出版社の教科書については、一般的に「使いにくい」という意見を持たれることもしばしばです。そこで次回は、Taxi !, Initial, Studio 60を実際に使ったことのある3名が、それぞれの教材について経験に基づく分析をし、いかに「料理」していったかをお話します。参加者のみなさんとの話し合いを通して、「料理」のしかたについて、もっと別の可能性も探りたいと思います。


上へ


Pékaトップページ     過去ニューズレターMENU