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NO.83

 


Pédagogieを考える会 NEWSLETTER 83

09/02/04

12月の例会は、新しい顔ぶれもたくさん見られ、盛会でした。
2004年も、元気に活動を続けていきます。
しばらく例会参加のない方も、たまには覗きに来てくださいね。コワくないから。

例会報告

フランス語教育における文化の評価を考える

林精子さん


テーマ:文化, 評価
キーワード:コミュニケーション

  林さんは、アメリカで日本語とフランス語を教えた経験から、アメリカの語学教育における文化面での評価について考えるようになりました。日本ではあまりなじみのない、米国での言語教育における文化の取り入れ方について紹介する形で例会が行われました。

1.OPIテストにおける文化の評価

 はじめに、林さんはTester Training Manualワークショップに参加した経験を紹介しました。これは、米国のOPI(会話測定能力テスト:The ACTFL Oral Proficiency Interview)のテスター養成トレーニングのためものです。今回は、このテストの中から、オーラル部門が紹介されました。
 まず出席者は、林さんがこのワークショップで日本語教師として日本語学習者に実際にインタビューをした時の録音を聞き、その概要を把握しました。インタビューは、名前、職業、天候、昨年の話などのウォーミングアップから始まり、レベルをチェックするための会話を発展させていきます。テスターは受験者に対して基礎知識を全く持たない状態で、インタビューを行います。所要時間は約10〜30分程度で、会話はプレッシャーを与えない形で録音されます。受験者のレベルはインタビュー全体で判定されます。中級・上級の判定にロールプレイが使われるのが、このテストの特徴です。これは専門分野のみならず、日常面での言語運用度を確認するためです。上級認定を受けるにはネイティブ並みの文化的知識や非言語活動についての知識が要求されます。例として、以下の日本語学習者用の中級・上級のロールプレイの設問が紹介されました。
−友人が留守中の、友人の祖父母との会話
−引退した高校の恩師との昔を懐かしむ会話
−結婚披露宴でフォーマルなスピーチ
このように、上級認定を受けるには、日本語の例で言えば、謙遜な態度やお辞儀なども要求されるそうです。
 OPIは、主観的なテストなので、テスター資格取得までの過程は厳しく、5年ごとに資格審査があります。

2.アメリカの大学での文化評価について

 林さんは、アメリカのある州立大学において、日本語(初級〜上級)と代講で1学期間のみフランス語(中級)を教えました。
−日本語教育において
 テキストの中にすでに文化面が盛り込んであり、文化的項目を含む総合的学習評価で、やりやすく、うまく行ったそうです。
−フランス語教育において
 対照的に、フランス語教育では、林さんは違和感を覚えたそうです。一学期は15週(全体で60時間)で、林さんは4学期目のクラスを担当しました。Interaction : Révision de grammaire française, 5eme édition. (Susan St. Onge, 1999. Heinle&Heinle Publishers, Boston)が指定教科書でした。全ての章がPerspectives culturelles, Structures et vocabulaire, Perspectives littérairesという三部構成であり、文法・語彙面よりも文化的・文学的理解を促す意図を持つ教科書であるようです。また、フランス人の語学教育専門のスーパーバイザーにより、非常に詳細なプログラムが組んであり、各教員がこれに従う形で授業が行なわれました。試験は一斉試験で、映画・文学という文化的知識についての問題も出題されました。教員相互間のコンセンサスがなかったため、採点基準において、文化的知識か、文法的知識重視かをめぐって、教員間で意見が分かれたといいます。

3.文化評価の問題点

 林さんは帰国後、日本で第二外国語としてのフランス語を教えるようになって、さらに外国人としてフランス文化を教えることの難しさと直面したそうです。彼女は、「目に見えない文化」は中級・上級で求められるものであるが、教えることは困難であり、初級においては、知らないからこそ日本語で説明することによって「知識としての文化(目に見える文化)」を与えていくべきであり、それに対する評価は、クラスでのディスカッションを通して、意識付けさせる程度でいいと考えます。またアンケートの結果から、学生は「目に見えない文化」の学習を求めていると感じたそうです。そこで、歴史、テーブルマナー、コミュニケーションにおける背景的知識を文化教育としてとりいれているそうです。
 林さんのコメントに対して、以下のような意見が出されました。
−自分の授業でも、容易だという観点から、教材作りにおいて「目に見える文化」の方に重点を置いてきたが、「目に見えない文化」も大切だということに気づいた。一方、スカーフ問題や年金問題など、「目に見えない」方も、実は扱っていた。やはりニュース性のあるものは、各国の考え方が反映しているので、どうしても「目に見えない文化」が入っているようである。こうした知識はテスト等で評価するのではなく、将来学生のためになるように教えたい。
−文化は時間がなくてやっていない。しかし、フランス人との考え方の違いから生じるような文法的誤用を扱うことで、文化に対するsensibilisationができると思う。
 こうした意見の交換から、さらに根本的な文化の分類についての議論がなされました。まず、議論の利便性を図るため使われた「目に見える文化」、「目に見えない文化」という分類は、フランスでは「知識としての文化(目に見える文化)」はculture monumentale、そして「目に見えない文化」はculture de la vie quotidienneと言われるのではないか、という意見もありました。また、この問題はcivilisationと cultureの違いにまで発展しました。

ここで、「授業で文化をどうしていますか」というテーマで、6グループに分かれてディスカッションが行われました。

グループ1)
 初級クラスにおいては文化的な知識を、コミュニケーションを容易にするものとして教えることができる。
−挨拶のときはbisesをするか、握手のために手を出す
−prénom とnomについて
−数を数える時の指の出し方
−ロールプレイでは、店の人に挨拶をすることや、やたらとお辞儀をしないなど

グループ2)
−シャンソンを聞いて歌う
−ファッションやワイン・料理の知識

グループ3)
 評価は間接的に下すが、評価項目としては以下の通り。
−友達の間の会話でVousは不可
−地理的知識
−申込み用紙等への記入練習

グループ4)
 文化を教えるのは必要だが評価はできない。

グループ5)
 初歩クラスにおいて
−Je voudrais …
−時事的知識
−地理的知識

グループ6)
 知識を問うのは無理なので、テストや点数といった評価には反映しない。文法項目の説明に文化についての知識を活用している。例えば、du painなどと部分冠詞を使うのはなぜかについての背景など。

 こうした意見の交換を通して、単なる文法的知識(Je voudraisや、TUとVOUSの使い分け)と文化を混同しているのではないかという議論がなされ、文化における分類の困難さが改めて実感されました。

4. まとめ

 米国における言語教育における文化評価の紹介で始まり、文化を分類すること自体難しい、文化を評価することはさらに難しいのではないだろうかということを確認して例会が終わりました。
 アメリカのOPIにおける文化的側面の評価の仕方としてのロールプレイの妥当性や、そこにおける学習者自身のアイデンティティの問題など、文化評価システムに対する疑問は少なくありません。また、OPIは米国においてもレベル判定が困難、文法と文化理解双方が内容にあるためテストとしては評価しにくいなどの点で批判されています。なお、フランス語OPIでは、評価が主観的すぎるという批判から、フランス側がOPIのための独自のスケールを設定しています。いずれにしても、文化を「知識として共有」することは可能でも、「評価」することは難しいと言えるでしょう。

(H.N.)

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次回のPékaは...

2月21日(土)
14:30〜17:20

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*図書館は入館チェックが厳しくなっています。入館の際は「研究会に出席する」と言ってください。そうすると「学外の方は、こちらへサインしてください」という指示がありますから、指定の紙に、所属機関と氏名・入館時間、行き先(L524)を記入してください。それで問題なく入れます。


1.フランス語教材としての
  映画の活用法 (宝田麻美子さん)

映画の活用法をテーマとした修士論文の中から、例会では、先生へのインタビュー結果、実際に映画を使って行った授業の報告をしたいと思います(教案作り、学生の反応etc.)。

2. 2004年度 例会日程
&年間テーマについて

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