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NO.81

 


Pédagogieを考える会 NEWSLETTER 81

30/10/03

フランスでは 早くも最初の寒波到来。
そろそろ クリスマスのバカンスを心待ちにしている方もいるのでは?
9月の例会はまだ夏休み気分の残るなかで行われました。

■例会報告

仏語圏文化の情報を含んだききとり問題
井上 美穂さん

テーマ:文化
キーワード:教材、教科書、ききとり

   井上さんは「ききとり問題」の観点から「文化」を取りあげました。前半は、フランスで出版されている教材のききとり問題の分析、後半は、井上さん自身が作成した、文化的要素を含んだ初級向けききとり問題の紹介という2部構成で例会は行われました。

1. フランスで出版されている教材のききとり

 問題の分析

 取りあげられた教材は、以下に挙げた4冊で、それらについて、学習活動が軌道に乗った頃と考えられる「第3課(Unité 3)」のききとり問題の抜粋が配布されました。ただし、今回は扱ったのは、dialogueやphraseをききとり質問に答える形式の問題で、録音付きphonétique練習、全文書き取りdictée、dialogueの録音だけを利用した学習は対象外とされました。
 配布されたこれらの問題を2名ずつのグループで分担して、ききとり問題のtranscriptionを参考に、
1)その問題がねらっている学習項目は、あらかじめ教科書に示されたどの項目に対応するのか、それともしないのか、
2)その練習問題に含まれる「文化的」情報は何か、
 という2点について検討し、実際に録音を聴きながら確認しました。教科書名と該当ページ数は以下の通りです。また、ききとり場面の内容については( )で、学習項目は[ ]、文化の指摘については「 」で記します。

Forum 1, unité 3 →
・p.59 ex.7(ホテルのルームサービスと客との会話), [部分冠詞、食品], 「朝食にショコラがある」
・p.60 ex.A(ホテルのフロントでの会話), [代名動詞、時間],「朝は日本と変わらないが夜の食事時間が遅い」

Tempo 1, unité 3 →
・ p.41 mise en route(様々な状況での挨拶), [tuとvous、挨拶], 「子供にはtutoyer、握手、身体に触れる、お得意さんに対する店の挨拶」
・ p.42 compréhension 1-5,(列車内、学内、図書館、街中などで初対面の相手に話しかける場面), [tuとvous、挨拶、尋ねる、好みを言う、意見を言う],「初対面であっても会話が途切れることをよしとしない」
・p.43 ex.13(tutoyerとvouvoyer), [tuとvous、挨拶],「Simonは姓にも名にも使われる」
・p.44 Le Temps(時間の表現), [動詞の現在形と複合過去形],「mon cheriというタイプの呼びかけは日本にはない」
・p.48 ex 2(好みに関する街頭アンケート), [好みを言う、意見を言う], 「レジャーの好みに関しては日仏比較をすると面白い」

Champion 1, unité 3 →
・p.30 ex.5(家の間取り), [部屋の用語、間取りを理解する],「30年代の家がフランスではまだまだ現役、日本より一般化している別荘文化」

Café Crème 1, unité 3 →
・p.30 ex.11(日付), [季節、月、数],「仏の祝祭日と記念日」
・p.32 ex.2(avoirとêtreの用法), [動詞avoir]

 以上、とりあげた問題は、いずれも、学習項目についてはわかりやすいものですが、そこからどのような文化を読みとるかとなると、その判断はanimateurとしての教師次第で、教える方にある程度知識がないと文化を教えるのは難しいことがわかりました。しかも、6月の例会でもみたように、知識としての文化に比べて、ユーモア、気質、習慣といった、言語化されていない文化的差異をどこまでとらえて教えるのか、グループによって様々な指摘がなされました。

2. 井上さん自身が作成した、文化的要素を含んだ初級向けききとり問題の紹介

 井上さんの経験では、Tempo 1 p.48 ex 2の表が埋まると、学生たちは学習項目に関するフランス語が聞き取れるようになったそうです。フランス語そのものを学習したいという意欲が低い場合、「何でこれやってんだ?」と考える学生も、ききとり問題を行った結果、「できた」という達成感だけでなく、フランス語圏に関する情報も自然に得られるような授業はできないものか、これが井上さんがききとり問題を作成した出発点でした。
 作成に際して、「仏語圏の情報」のみをシラバスとする授業の実現は難しく、問題を現在のフランス語学習シラバスに合わせる必要がありますが、ニュース的要素を含むききとり問題が作りやすいシラバスははたしてあるのか、が問題となります。
 コミュニカティヴアプローチ以前、シラバス=文法項目であったのに対して、コミュニカティヴアプローチ以後、シラバスは言語が社会において果たしている機能(同意、依頼、謝罪など)を教える「機能functionsの学習」と言語機能を遂行する際に表現される意味の枠組み(時間、量、場所など)とを教える「概念notionsの学習」の観点から構成される、と考えられるようになりました。概念は個々の抽象概念を扱うgeneral notionsと状況や文脈が関係するspecific notionsに分けられます。このことから、シラバスとききとり問題との関係は、1-specific notions学習のためのききとり、2-general notions学習のためのききとり、3- functions学習のためのききとり、4-文法学習のためのききとり、以上の4つから把握できると思われます。井上さんのききとり問題は1、2、3から複数を組み合わせて作成されましたが、4による問題も可能とのこと。井上さんが紹介したききとり問題は次のようなものでした。

・東京タワーとエッフェル塔、H2Aとアリアンの比較のききとりからタワーや宇宙産業についての情報も得られるもの
・仏語圏各国と日本との面積の比較から地理的情報も得られるもの
・ツール・ド・フランスの順位のききとりからスポーツの情報も得られるもの
・デザートの説明を利用した食材と位置のききとりから食文化の情報も得られるもの
・世界地図を利用した数と方角のききとりから地理の情報も得られるもの
・方角のききとりからロワール地方の観光情報も得られるもの
・フランスの偉人の生没年のききとりから歴史の情報も得られるもの
・部屋割りの場面を利用したアルファベと数のききとりから名前に関する情報も得られるもの
・見学日程を利用した観光名所と日付のききとりからパリ観光の情報も得られるもの
・料理の説明による料理と食材、および好き嫌いのききとりから食文化の情報も得られるもの
・観光、および同意と異議のききとりから観光グルメ情報も得られるもの
・鉄道の乗り降りと指示のききとりからパリ市内交通情報も得られるもの
・住んでいるところと好き嫌いのききとりから地理情報も得られるもの
・パーティーの準備を利用した食品と否定文のききとりから宗教に関する情報も得られるもの

 これらの問題について、例会参加者と井上さんのあいだで活発な議論が交わされました。
 井上さん作の聞き取り練習問題はとてもよくできているが、客観的な文化情報・知識を扱うことはできても、それ以外の微妙な文化については扱えないのでは」という指摘には、井上さんから「ニュースで見てわかる情報を取り入れるのが目的であり、作者として客観的に扱える知識以外の(形のない)文化は経験がないと伝えられないので、扱いきれず、ここでは避けている」との回答がありました。また、学生はフランスを遠い世界、ショーケースに入ったもののように感じていて、生きたフランス人の「顔」が見えていないように思われる。そこでステレオタイプを助長するような練習問題よりも、たとえば前半の作業で見たTempoのdialogueの聞き取りのような素材のほうが、生きたフランス人が感じられてよいのでは、という意見もありました。にじみ出してくる文化の香る教材が作れるかどうかは用いる素材にもよるのでしょう。フランスで、教材の元を作るために行ったインタビューから、お決まりの質問を越えて生の人間をかいま見た経験を語った参加者もいました。フランス人との生きた交流についての体験談は学習者にとって、学習対象をリアルにしてくれる効果があるのでは、という指摘ですが、その経験を教材とするとなると困難が伴います。「もの」としてのフランスを伝えるだけでなく、そこにフランス人が実存することを理解させ得るききとり問題ができるとすれば、それ自身がdocuments authentiquesとなっているのではないでしょうか。しかし、問題によって伝えたいと思うフランス人の生き様も、作成者の目を通したものであって、偏ったものになる可能性があります。少なくともフランスについての客観的な情報を確実に伝えることができるという点で井上さんの試みは参考にしなければならないでしょう。

(R.T)

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次回のPékaは...

11月8日(土)
14:30-17:20

明大駿河台校舎12号館12階
2121教室(AV1教室)

1. TAXI! (Hachette) について:
Robert MENANDさん
著者のMENAND氏より、当教科書について紹介してもらいながら、使用者・未使用者からの質疑応答、ディスカッションを行ないます。

2. 電子メール交換に見る「文化」
小松 祐子 さん
学生がフランス語母語者との間に行ったe-mail交換の例をもとに文化的要素を検討します。メール交換に現れやすい文化的話題や文化的発想に基づく仏作文の問題について分析の後、効果的な指導法を考えたいと思います。


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