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NO.71

 

 


Pédagogieを考える会 NEWSLETTER 71

18/02/02

 年度末を迎え、ほっと一息つかれている頃でしょうか。
 今年度の授業を振り返って、いかがでしたか? また4月からに備えましょう。
 忘年会当日ということもあって、大いに盛会だった12月の例会報告から...

■例会報告

「フランス語教育の基本の勉強をしませんか?」3
「アプローチ」と「メソッド」

田中幸子さん

 10月の例会では、「私の授業、これだけは譲れない」と思うことについて、みんなが意見を出し合いました。前号のニューズレターでご紹介した通り、さまざまな考えが集まりました。今後Pékaの活動を一冊の本にまとめることになったら、こうした私たちの日頃の思いをきっかけにして、第2言語習得や関連する分野についてふだん振り回し(振り回され)ている用語の概念、そして知ってるつもりの理論をもう一度確認していく章を初めに置こう!そこに参考文献の解題も載せていこう!という提案もされました。

 12月の例会は、まず10月の討論で出た意見に目を通し、言いたかったことがちゃんと伝わっているかどうかお互いに確認することから始めました。発言した人がいなかったため未解決の話題もありますが、以下のようなことを話し合いました。

●「全員参加」とはどういう意味で言っているのか?→お客さんにならない、同じことを共有しているという意味だろうか?
→黙っていても参加していることもあるので、必ずしも発言していなくてもいいと思う。

●「学習者中心」は一度用語として整理したほうがいい用語ではないか。
→次回のPékaで扱ってはどうか。

●「技術で引っ張っていく授業」というコメントは共感を呼んだ。
→「あなただからできるのでしょう」と言われることがあるが、教師の個性でできるのではなく、技術的な積み上げがあるからできるのだと言いたい。

●「学習者がリラックスして笑ったりできる環境構築に責任を持つ。」
→(発言した本人から)とくに強調したかったのは「リラックスして学習できる環境」を大切にしている、ということ。

 こうした議論自体がPékaらしくて面白いので、もし本にする場合は「ある人の発言」→「それに対するコメント」という風に、話し合いの過程が分かるような(ライブ感のある!)見せ方をしてはどうかという案も出ました。

 さて、私たちにとって「譲れない」これらの考えは、"approche" と呼んでいいものか、"méthode" なのか…そもそも "approche" と "méthode" の違いは何か、文献を見直していく作業を続けて行いました。

 田中さんが用意したいくつかの文献:

○『日本語教育の方法−コースデザインの実際−』(田中望、大修館、1998)

○『外国語教育学大辞典』(K.ジョンソン& H.ジョンソン、大修館、1999)

○『ケーススタディ日本語教育』(岡崎敏雄他編、おうふう、1992)

以上の「メソード」と「アプローチ」に関わる箇所を、グループごとに読んで、各文献の中で、この2つの用語がどのように説明されているかまず探しました。

『外国語教育学大辞典』では主に、
○ Anthony, E. M., Approach, method and technique, In H. B. Allen(ed.), Teaching English as a Second Language,1965 (Originally published in English Language Teaching, 17, January 1963)

○ Richards, J. C. and Rodgers, T. S., Approaches and Methods in Language Learning : A description and analysis, Cambridge University Press, 1986
の考えが紹介されていました。

 Anthonyは:
approach =「相互に依存した推論の集合体」
method =「言語材料の配列の全体計画」
とし、「1つのapproachに対して多数のmethodが存在し得る」と言っていて、「approachに即したmethodを実践する際の指導技術」であるtechniqueという階層が提示されていました。
 それに対して、Richards, J. C. and Rodgersは:
「methodに含まれているものが、approach、design、proceduresである」としていて、とくに階層はつくっていません。

 フランスの文献を持参した参加者からは、たとえば、
○Puren, Christian, L'histoire méthodologie de l'enseignement des langues, CLE, 1988
 こちらでは、enseignement→didactique→méthodologies→méthodes→techniques→procédésという階層が提示されていること、

○Germain, Claude, Evolution de l'enseignement des langues, 5000 ans d'histoire, CLE
 ここでは、複数のméthode, approcheの原理であるcourantと言っていることが紹介されました。

○Galisson, R. & Coste, D., Dictionnaire de didactique des langues, Hachette, 1976
 これには、approcheの項はありませんでした。méthodeの項に、une "méthode" est une somme de démarches raisonnées, basées sur un ensemble cohérent de principes ou d'hypothèses linguistiques, psychologiques, pédagogiques, et répondant à un objectif determiné.
とありましたから、おそらくapprocheは、言語学、心理学、教育学以外にも広くさまざまな分野が、外国語教育に関係していると考えられるようになってから、つまりapproche communicative以降の用語だろうと推論できます。

 このように色々な人が色々な分け方をしていることがよく分かったのですが、私たちはそれをどうやって扱っていけばいいのでしょうか。結局は、色々言われていることを踏まえたうえで、私(たち)は「こう考える」というスタンスを出していけばいいのではないか、という意見に同感した人が多かったようです。

 次に、前回出し合った私たちの「譲れない」ことがらの各々が、Richards and RodgersによるApproach(基本となる考え方)、Design(具体的なかたち)、Procedure(授業の進め方)のどれにあたるかを、考える作業を進めていきました。

Approach(基本となる考え方)
=言語理論、言語習得理論に関わること、Design(具体的なかたち)
=目標やシラバスモデル、教室活動のタイプ、学習者・教師の役割、教材の役割など、Procedure(授業の進め方)
=学習者がそのイメージを体現してくれて始めて成立するようなクラス内の教師の動線、インターアクションパターン、学習者のストラテジーを含みます。

 Approachつまり言語理論や言語習得理論について言及したものよりは、どちらかと言えば、たとえば「学習者参加型」「学習者が能動的に理解すること」「学習者が興味を持てること」「学習者がリラックスできること」「学習者が退屈しないこと」といった、クラスにおける行動・テクニックについて、つまりProcedureについての意識が高いことがわかりました。

 けれども「学習者が〜」という意見は、学習者と教師の役割のイメージ、つまりDesignにも絡むことだし、Procedureは本来は学習者がそのイメージを体現することを前提に成立することがらなので、実際には、各意見を「具体的なかたち」「授業の進め方」のいずれかに、はっきりと分類するのはとても難しいということになりました。

 そこで次回は、「譲れない」ことの多くに関係していきそうな「学習者中心」という用語をテーマに取り上げて、この用語が生まれた経緯、背景にあった理論を見てから、そこから派生する学習者の役割、教師の役割、授業の進め方のテクニックに関して、Pékaの意見をまとめておこうということになりました。

( R.T., M.H.)

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Péka Info

<2002年度 例会開催日程>

2002年度は、以下の日程で例会を開催の予定です。
会場につきましては、毎回、ニューズレターでお知らせいたします。
 なお、やむを得ず日程が変更される場合もありますので、ニューズレター掲載の例会案内にご注意ください。

4月27日, 6月15日, 9月28日,
10月19日, 12月14日,
2003年2月22日
いずれも土曜日午後です。

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次回のPékaは...

3月 2日(土) 14:30-18:00
上智大学  
9号館 3階
 9 - 359

     ちょっと前回の復習  (小松祐子さん)

   「学習者中心」について考える  (左合桜子さん)

 今回のテーマは「学習者中心(の授業)とは?」です。前回まで3回田中幸子さんの司会で「フランス語教育の基本の勉強」をしてきて、「教師として私たちが譲れないもの」?「アプローチとメソッドの概念規定」というように話を進めてきたわけですが、今度は「譲れないもの」として多くの声があがった「学習者中心(の授業)」について考えましょう。
 ディスカッションを進めるためのキーワードは、たとえば、enseignement ou apprentissage, besoins et int
érêts, enseignant ou animateurなどでしょうか・・・。「学習者中心」についてこれまでどのように言われてきたか、また、その周辺に派生してくることがらについて、文献を持ち寄って話し合いながら、Pékaとしての公約数をまとめられたらいいと思っています。
 春三月、桜が咲くにはいささか早すぎる時期ですが、入試に関連してお忙しい方も、春休み真っ只中で家族サービスに余年のない方も、新学期を迎えるにあたって格好のテーマです。大勢の皆さまのご参加をお待ちしてます。

 (左合桜子)

 

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