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NO.55

 

タイトル:映画を使った教材の可能性について

担当者:白井春人

テーマ:実践、教材

キーワード:映画、シナリオ

タイトル:植民地教育を考える

担当者:西山教行

テーマ:研修

キーワード:言語政策、SIHGFLES、第二言語


10/04/99

no.55

 新たなクラスを迎えて授業の準備に追われている方も多いことと思います。今回の例会はそんな授業に新しい視点を取り入れるためのヒントとなる発表が二つ続きました

■例会報告1.

映画を使った教材の可能性について

白井春人さん

 視覚の刺激に敏感な現代の学生の要求に適応した形で授業を活性化させる手段の一つとして、フランス映画を教材として扱う方法がありますが、ここではまず、映画を授業で活用しようという目的で作られた「映画シナリオ教科書」の変遷を振り返ってその傾向を分類・分析、次にその結果を踏まえて白井さん自身が現在作成中で、大学の2年次の授業で試用中の教科書が紹介されました。

1)「映画シナリオ教科書」の変遷
 日本国内ではこの10年間にフランス映画のシナリオを用いた教材が4社から合計29冊出版されています。そのほとんどが中級教科書ですが、これらは5つのタイプに分類されます。

1. シナリオに注がつけられただけのもの。例:窪川英水編注『シェルブールの雨傘』(白水社)

2. シナリオに内容に関する質問と文法事項のまとめがついた一種の講読用教科書。例:渡辺芳敬編『緑の光線』(駿河台出版社)  

3. 一つの映画の幾つかのシーンをピックアップして内容理解・文法整理のための練習、要約や仏作文をつけた総合教材。例:大木充/ジャン=ノエル・ボロ編『友達の恋人』(駿河台出版社)

4. 複数の映画から数場面を取り上げて内容に関する質問、文法項目の学習の他に actes de paroles の練習が加えられたもの。 例:川合ジョルジェット/中井珠子編 『映画に行こう』(白水社)

5. 初級文法を映画のシナリオを使って学習するもの。例:窪川英水編注『初級シェルブール読本』(白水社)、立花英裕著『映画で学ぶ初級フランス語「禁じられた遊び」』(第三書房)

 またフランスでは "Le cinéma de la vie 1,2" (Didier/Hatier)、イタリアでは "Vous comprenez le français " (Lazzaretti)といった教材があります。

 これら映画を使った教材は文字を読むだけの閉鎖的な講読から授業を解放し、語学的な側面にとどまらず異文化理解の手がかりとしても役立つという長所がある反面、映画を見て、聞き取り、内容を理解してゆく過程にどうしても時間がかかるという問題点があります。また、多くの教科書が1作品を1年間で見終える形になっています。大学の限られた時間数のなかでできるだけ多くの映画に触れ、そこに現れた、日常生活で用いられる actes de paroles を学習者が理解し、自分でも使えるように導くことはできないか?こうした意図で、白井さんの新しい映画教科書は企画されました。

2)白井さんの新しい「映画シナリオ教科書」

 ストーリー的にも重要なシーンに、利用できる actes de paroles が含まれている映画で、1作品から学習する actes de paroles は2つ程度、1作品を1ヶ月(4回)でこなすという指針で作品を選定。本書では、6作品を取り上げ、自己紹介、情報の提供と要求、提案・承諾・拒否、好みと意見の表明、過去を語る、未来を語る、因果関係・仮定の表現といった学習項目を設定しています。テキストは、作品ごとに、1. 監督と作品に関するデータ、2. 取り上げた場面のシナリオ、3. 穴埋めで文法項目をまとめるページ(2.と3.は見開きでページの左右に対称的に配置)、4. 内容に関するフランス語での質問、5. actes de paroles の変形練習と jeu de rôles による発展練習、という5つの部分から構成されています。今回はDossier 1 "Beau mariage" d'Eric ROHMER と Dossier 3 "M.Kein" de Joseph LOSEYを例として授業の流れが説明されました。

 まずビデオを見、それからテキストに入ってゆきますが、見せる部分に関しては、冒頭から教科書の場面までは背景の理解の意味も含めてまず通して見せたほうが、口で内容を説明するよりわかりやすいとのこと。教科書の場面は字幕付の場合には字幕を隠して見せ、内容の大まかな理解、次に教科書を開けてシナリオを音読、文法の理解、その後 actes de paroles の練習へと授業は進みます。教科書の場面だけに限れば、1回目の授業で文法のまとめまで、2回目で前回の復習とフランス語による質疑応答、actes de paroles の練習まで終了するというのが進度の目安ですが、背景の理解のために作品の導入部分を見ていると1つの映画で3回の授業が必要になります。授業全体の説明の後には定期試験の問題も紹介されました。

3)質疑応答

以上の実践例について、Pékaのメンバーからは、映画の版権の問題、テキストの構成等で様々な指摘がありました。ビデオを教室で利用する機会が増えた現在、著作権には十分に注意して作品を扱う必要があるでしょう。テキストの構成に関しては、文法のまとめの位置づけが問題となりました。せっかく映画を題材としても方法によっては以前の伝統的な講読授業と同じ結果になる、文法は注にまわし、理解力を高める練習を中心にした方がよくないか、シナリオを読むだけでなく人物や状況を出発点として表現力を磨く立体的な構成が欲しい、といった厳しい意見も。フランス及びフランス人の生活を知るために映画を見て楽しむ教養的側面と、シーンを見て、聞き取り、内容を理解する語学的側面のバランスのとれた授業を組み立てるのは難しいものです。いずれにせよ、この教科書は、1年間で数作の映画に触れて、知識を広げると同時に語学力も向上させようという興味深い試みでといえるでしょう。工夫次第では様々な授業方法に適応できると思われます。

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■例会報告2.

植民地教育を考える

西山教行さん

 後半は、1998年12月11日にサン・クルーで開催された植民地教育に関する学会に参加した西山さんの報告です。学会の主催者は SIHFLES ( Société internationale pour l'Histoire du Français Langue Etrangère ou Seconde )という組織で、設立はイスラエル、メキシコ、アルゼンチン、1988年、フランス語教育の歴史を研究対象とし、会員は200名弱、モロッコ、ドイツ、日本他多岐にわたります。年2回シンポジウムを開催。今回のテーマは「植民地下におけるフランス語の普及と教育 フランス語教育を分類・説明した上で、第二言1815年-1962年」でした。西山さんはまず、学習目的から語としてのフランス語について考えるこの学会での発表の内容を紹介。日本では見落とされがちなこの分野にも、語学教育の目的意識を再考する上で注目すべき点があるのではないかという問題提起がなされました。

1)フランス語教育の分類

 フランス語を学習する形態は、1)母国語langue maternelleとして、2)第二言語langue secondeとして、3)外国語langue étrangèreとして、という3つが考えられ、1)が生得のものであるのに対し、2)は多言語社会のなか、対象となる言語が公用語のような支配的な地位を占めている環境で、必要に迫られて習得するもの、3)は学習者が強制的な状況になく、その言語を教室外ですぐに使う機会があるとは限らないものになります。現実の世界では1) 2) 3)の集合が互いに重なり合いながら環のように繋がっている一種のリソーム構造になっていると考えられます。

2)植民地下におけるフランス語の普及と教育

  今回のシンポジウムで取り上げられたテーマを列挙すると
  1.英仏植民地下の同化政策の相違
  2.植民地下のチュニジアでのフランス語教育の貢献
  3.ニューカレドニアでのフランス語の普及の歴史
  4.西アフリカを中心としたフランス語の普及と植民地主義
  5.植民地主義の概観

というように、世界各地からの報告が並んでいます。特にチュニジアのケースとニューカレドニアのケースは対照的で、前者は、国家の近代化のためにフランス語が積極的・肯定的な意味を持った例と考えられるのに対し、後者は、多人種・多言語の島における媒介言語としてのフランス語が、キリスト教の布教と関連して普及する過程で、現地の言語を不当に卑しめる結果となり、フランス領でありながら侵略者の言語としての抵抗感を払拭できないフランス語教育の負の側面を示す例となっています。また、パレスチナではユダヤ人とアラブ人が第三者の言葉であるフランス語で対話するという、民族和解の言語としてのフランス語の可能性が問われています。

3)なぜ植民地教育について考えるのか

 この学会の紹介の後、西山さんから、「日本ではフランス語教育といえば、教室内の外国語教育と考えがちだが、世界にはフランス語が支配・被支配の力関係と結びついた地域があることを忘れてはならず、植民地教育について考えることで、日本人が関わるフランス語教育の視野を広げる必要があるのではないか」という問題提起がありました。これに対しては、「日本でも、フランス語を使って何かをしようという人にとっては、ある時点からlangue étrangère は langue seconde に移行する以上、日本においても教室内で教師と学生が目指す到達目標は、実現するかどうかは別としても、単なるアクセサリーのような外国語から道具として使いこなす外国語までを視野に入れている」「そもそも社会環境を記述する枠組みとしてのlangue étrangère / langue secondeの区別は学習者個人のなかでは問題とならない」「日本の場合は、日仏学院のように個人のレベルでの自発的な外国語習得と、大学のように制度としての外国語習得との枠組みの違いは教師の意識の上でも注意すべき問題だ」「フランス語に限らず日本語教育を考える上でも、朝鮮半島や台湾での植民地化の歴史と日本語の関係は重要なテーマだ」といった意見が出されました。何のためにフランス語を教えるのか、教師は絶えず世界に広く関心を持ちつつこれを意識して行かねばならないのだということを改めて肝に銘じる機会となった報告でした。(R.T.)

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■Péka Info

年間の日程と活動テーマについて
1999年度の日程は 次の6回です
4月24日 東京日仏学院 301教室
6月19日 上智大四谷キャンパス6号館311教室
9月25日  〃
10月23日  〃
12月11日  〃
2000年 2月19日  〃
(2月は入試の関係で変更があるかもしれないので、NLで確認してください。)

年間のテーマは「授業のかたち」。
学習者に何をわかってほしいか、何を身につけてほしいかということについては、過去の例会においていろいろと議論されてきました。それはPékaのメンバーによる教科書や教材の出版というかたちで具体化されてもいます。さて今年は、私たちの仕事の現場でこの「内容」を学習者にどのように示していくのか、どのように理解して身につけてもらうのかということにスポットを当てよう、つまり授業というものを正面からしっかり見据えてみようということになりました。たとえば、教室の机の配置と授業の関わり、学習者の気分転換をはかるためのタスクリスト、質問しやすい授業環境、etc.いろいろなことが考えられます。(K.U.)

 

次回のお知らせ

次回のPékaは...
4 月24日(土)2:30 - 5:30
東京日仏学院 301教室
(らせん階段を上がったところの部屋)
 今年度第1回目のPékaは「一年間のプログラムづくり」です。年間テーマに基づいて各例会のテーマを決める予定です。「授業」に関して考えていること、悩んでいることなど、意見交換するうちに様々なテーマが浮き彫りになってくることでしょう。
みなさん、どうぞ参加してください。

 野池さん渡仏のため、NL担当が変わりました。
   新担当のレイアウト技術、いまのところ、
   これが限界です。次回にご期待ください。(姫)

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