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NO.42

 

タイトル: 「フランス語教育と異文化理解」 

担当者:善本孝

テーマ:環境、理論

キーワード:異文化

 


Péka Pédgogieを考える会

NEWSLETTER 42

le 5 février 1997

 

102京京都千代田区紀尾井町7-1

上智大学外国語学部

田中幸子研究室 tél.03 3238 3742

郵便振替口座00120-1-764679 PEKA

 

■例会報告

 「フランス語教育と異文化理解」 (善本孝さん)

 フランス語教育の分野ではまだあまり見られないが、英語教育においては、てすでにかなりの刊行物が存在し、さまざまな論議が行われているらしいこのテーマについ英語園での異文化理解の問題に関する善本さんの説明を受けた後(注1)、提示された次の論点に沿ってグループに分かれて話し合った:1)「異文化理解」「異文化()コミュニケーション」(Intercultural communicationまたはcross-cu1tural communication)などの用語からまず何をイメージするか;2)()文化を教えるとは、何を教えるのか;3)実際に授業では、いかに教えたらよいか。

 1)については、概ね全員が同じイメージを持っていることがわかった。すなわち、異文化とは、自分すなわち日本人以外の人々の文化であり、異文化理解とは、自分の文化との差異の理解であること。文化とは、抽象的には、ものの考え方や感じ方、価値観を指し、具体的には、服装、行事、食べ物、住居などに現われる身振り、風俗、習慣の集合であること。

 また、理解≠同化であること。つまり異文化理解は、自分を相手に合わせるためでなく、自分自身の客観化や、異なる考えを許容する柔軟性、寛容性を養うためだという点について意見が一致した。ただし、言語植民地主義につながるからという理由で、異文化教育は一切行うべきではないという立場も存在し得ること、francophonie mondialeの観点をとりいれた教科書が増えつつあるとしても、日本のように英語もフランス語も使わない国での異文化理解への動機づけの難しさが指摘された。

 2)それでは、いかに差異を教えればよいのだろうか。教えるべき内容は何か。抽象的知識を日本語で教えるのか、それとも具体的状況での「スクリプト」を示すのか。提示した「スクリプト」が紋切り型になってしまう危険もある。事象すべてを網羅的に教えることは不可能だし、だいいち時間が足りない。これらの疑問をまとめるならば、細かいスクリプトの(無限にある)「知識」を教えるのでなく、遠いに対処する「姿勢、心がまえ」を作ることが肝要である(善本)ということになるのではないか。

 3)最後の段階では、異文化理解の意味と言語学習の目的とは互いにどう関係しているか、またそれをふまえて、フランス語の授業を具体的にどう進めるかについてグループごとに考えた。学習法の変遷を考えれば、スキルだけを教えていたaudio-linguaI法に比べると、communicative approachの普及によって、いかにコミュニケートするかという観点から、身振りなどを含む対話相手の文化の理解が不可欠になったと言える。だが、どちらが目的でどちらが手段だと考えるか。

 異文化学習は授業の中に自然に盛り込めばよい、言語そのものが文化なのだから、言語学習の目的イコール異文化理解だ、などの立場に加えて、異文化を知るために言語を学ぶはずなのだが、目標に到る道があまりに遠いので、教師としては、語学学習の目的のための手段として異文化を教えることになる、という指摘もあった。

 具体的な教材、方法については、例によって様々なアイデアが提案、紹介された:ロールプレイなどを行う場合、トラブルのある状況設定がよい。

一映画、展覧会、ガイドブック(『パリ・パ・シェール』)、定期刊行物(OVNILa Page、フランスの雑誌のアンケート)、テレビ番組(「世界遺産」「世界の車窓から」)を使って、文化紹介をする。ただし、フランスのテレビ番組はなかなかうまく使えない、工夫が必要。(例:クイズ番組の冒頭を自己紹介に使う)

一ヴィデオなどを見せる際に、映像の細部に注意を向けることによって文化的差異に対する観察眼を養う。帰国子女の学生や教師の体験談を聞く。日本人はトラブルを外在化して処理するかわりに、抑圧してしまう傾向があるので、教師の失敗談は、親近感を持ってもらう効果も加えて二重の利点がある。

 

 結論として、善本さんが、理屈で説明する「認知的学習」(日本語で行える。世界史、比較文化史などの授業も含む)と、疑似経験を通した「気付き」「姿勢」(cultural awarenwess)という「体験的学習」の両面があると指摘した。「実物」の威力(例:実際にフランス人と起居する経験をもつ)は絶大で、語学の授業では後者がより大切だという意見が出た反面、そのような機会を持てない学生に対して如何に教えるか工夫することが大切だという声もあった。

 

 その後、全体に対して次のような意見が聞かれた:

一異文化理解は、地域研究ではない。フランス礼賛にとどまることなく、フランスが単なる一例であるように、ethnocentrismeを排するにはどうするか。

一二外は、英語一語支配に対するcounter balanceとして機能するのではないか。

一二外のコマ数不足や、「ハイ・カルチャー」の伝播以外を目指すフランス語学習テキストが現在あまりないことを考えると、例えば世代間断絶といったことをテーマに、自国文化の内部での文化的相対性、差異にたいする「気付き」を養うのに重点を置いたほうが異文化理解にとってはより有効なのではないか。

一マリ・ガボリオさんによれば、フランスでは、「異文化」といえば、東洋、イスラム世界のイメージである。「異文化理解」についての出版物は日本に比べて少なく、異文化コミュニケーションが対象としているのは主にアメリカ文化である。interculturelという用語は殆どフランス国内の移民との文化的摩擦に冠せられ、国際問題では使わない。「微笑む」研修がフランスの会社などに浸透してきたことに見られるように、フランスの異文化理解は経済的な必要に動機づけられている。

 文化を教えるという難しいテーマであったせいか、あるいは、にも関わらず、談論風発であった。異文化を教える必要性、目的、という理論的側面と、実際どのように教えるかという実際面の両方で意義ある話し合いが行えたのは、発表者の善本さんの進行に負うところが大きい。最後に、教師はある意味でフランス文化を体現しているのであり、異文化理解における自らの役割を常に意識していなくてはならない、というところに期せずして論議が収斂していったのが印象的だった。

 

(1):これは、国際理解なる項目が、中学高校の英語の新指導要領の目的に含まれているからであるとのこと。『異文化理解のストラテジー』佐野、水落、鈴木著、大修館書店、1995年、などを参照。参考書として、『異文化コミュニケーション:欧米中心文化からの脱却』、K.S.シタラム著、東京創元社、1985年;『第二書語の学習と教授』、ビビアン・クック著、研究社出版、1993年、が勧められるそうです。

(M.H.)

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次回のお知らせ

 今度の例会は、題して「コミュニケーションとジェスチャー」。

 話しことばのコミュニケーションを形づくる重要な要素のひとつであるジェスチャーについて、日本とフランスで研究をしている二人から話をきくことになりました。ジャック・モンルドンが文化庁の招聘で来日する関係で、国立国語研究所で行われる公開研究会とPékaの研究例会がドッキングする形になります。場所と時間が、普段と少し違いますので、注意!

●日時:222日午後2時?5

●場所:国立国語研究所5階講堂(東京都北区西が丘3-9-14 埼京線十条駅または都営三田線板橋本町駅下車、地図を参照。)

1 ジェスチャーとイントネーション 大木充さん(京都大学)

2 コミュニケーションと言語教育におけるジェスチャーの重要性 Jacques Montredon(ブザンソン大学CLAB)

 大木さんは映画を使ったフランス語教材や、「フランス人の身ぶり辞典」、NHKラジオフランス語講座などで大活躍しておられます。Journée pédagogique Rencontresで大木さんに遭遇した人もいるのではないでしょうか。フランス人が、指で輪をつくって動かしながら話のめりはりをつけるのをよく見ますが、大木さんは、そういう現象……談話のなかで話し手が意味的に重要と考えフォーカスをあてる部分に、イントネーションやジェスチャーがどんなふうに伴ってあらわれるのかということに興味を持って研究を進めています。

 Jacques Montredonは皆さんもよくご存知の<C'est le printemps1>(なつかしいコミユニカティブアプローチ教材のルーツ!)の著者です。CLPだけでなくて、フランス人のジェスチャーに関する研究を進めていて、教材も作っています。最近は、いろいろな話題について「説明」しているテレビ討論番組のようなdocumentをたくさん集めて、レーザーディスクに録画し、そこに含まれているいろいろな種類のジェスチャーを「からだのどこを動かしているか」とか「どんな意味があるか」などで分類し、検索したりすぐに画面に出して見せられるようにしました。ジェスチャーを含む部分だけを見たり、スローモーションにしたり、それを合む話の流れ全体を見たりすることもできます。

 今回は、フランス語の学習の場でジェスチヤーに着目することはどんな意味があるのか、授業にどのように取り入れることができるのか、長年教材をつくったり現場の教師として授業をやってきた立場から、面白い話を展開してくれると思います。

 なお、Jacques Montredonは、このほか214()午後830分から東京日仏学院でもワークショップをやる予定ですので、興味のある方は、そちらのほうもどうぞ。

 22日は、二人の講演とディスカッションが終わったあと、国立国語研の向かい側の美味しい寿司屋さんで乾杯の予定です。どうぞお楽しみに!

(S.T.)

 

Péka Info

 住所録データについて

 次号ではNewsLetterと一緒に97年版のPékaの住所録をお送りしようと考えています。

 なるべく最新の正確なデータに基づいて作成したいと思いますので、昨年以降住所や勤務先などのデータに変更があった方は、お手数ですが何らかの手段(郵政省mail、電話、faxE-mail、人づてなど)で連絡係の野池までお知らせください。勝手ながら320日までにお願いします。

 変更だけではなく、faxE-mail addressなど、新しく導入された連絡手段がある方ももお教えください。

(H.N.)

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