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NO.38

 

タイトル:日本人フランス語学習者の読解におけるテキスト情報とテキスト外情報の役割 

担当者:常盤僚子

テーマ:環境、理論、構成

キーワード: スキーマ理論、読解、前提知識、語彙のヒント、
トップダウンストラテジー、アンケート

タイトル:私はなぜフランス語を教えるのか 

担当者:土屋良二

テーマ:クラス運営

キーワード:教師、学生、コミュニケーション

 


Péka Pédagogieを考える会

NEWSLETTER 38

le 8 juin 1996

 

102東京都千代田区紀尾井町7-1

上智大学外国語学部

田中幸子研究室 tél. 03 3238 3742

郵便振替口座O0120-1-764679 PEKA

 

■例会報告1

 日本人フランス語学習者の読解におけるテキスト情報とテキスト外情報の役割 (常盤僚子さん)

 どんな言語(母語であれ外国語であれ)で書かれていても、あるテキストを読解する場合、その作業は「読解とテキストのインターアクティブな作用によって行われる」のであり、単なる記号の解読ではない。読解におけるテキストと読者の関係は、SMITH GOODMAN RUMELHART STANOVICHI などが第1言語の英語教育研究でおこない、「スキーマ理論」を唱えている。つまり、「スキーマは、人間の記憶に構築された知識の構造である。これを用いて情報の処理が行われる」というもので、読者が自己の内部に持つ既存知識が新しい知識の修得に大きなストラテジーとなるということである。このことは第2言語の読解研究にも応用され、語学力と同時に読者のスキーマの必要性が認められている。

 以上のような理論を背景として常磐さんは、外国語教育への利用を踏まえて、読解に際してはどちらの知識がより有効に働くのか、どの時点での導入が有効なのかなどを実験した。実験は次の様に行われた。

 ●大学生151人に対して仏検3級程度のテストをして語学レベルにより上位群、下位群に分ける。

 ●それぞれのグループをさらにヒントの提示順序の異なる(語彙V→前提知識C、前提知識C→語集V)グループに分け、計4グループ作る。

 ●テストテキストは、A:上記の仏検3級程度、B:笑い話の2種類で、それぞれ@馴染みのあるもの、Aスクリプト的(慣例化した行動、礼儀などを扱った)なもの、Bスキーマ的(価値観や文化的知識の内容を扱った)なもの1問づつ、計6問を用意した。

 実験の結果は、テキストAの様な普通のテキストにおいてはヒントの提示順序によるグループ間の差異は認められなかったが、Bのような笑い話ではグループ間、テキスト間でかなりの差異が認められた。@馴染みのあるテキストでは下位群において語集ヒントが有効。Aスクリプト的テキストでは上・下位群とも前提知識の有効性が認められたが、とくに上位群においてその効果が大きかった。Bスキーマ的テキストでは上位群では前提知識、下位群では両方のヒントが必要とされた。

 さらにテキストBでどの時点で学習者が理解したかを分析して、

 ●語集ヒントは学習者に自分の推測を確認するのに役立ち安心感を与えるので、ヒント順序は語彙→前提知識の方が有効である。

 ●Bのようなスキーマ的テキストでは両方のヒントが与えられても理解が難しい場合がある。

 ●上位群ではヒントを上手く利用できるtop-downストラテジーを用いる事ができる。

という結果も得た。

 以上のことより、「馴染みのあるテキストでは語集ヒントが効果的であるが、文化的内容のテキストでは前提知識が不可欠であり、その前提知識は上位群の方がより有効に用いているということが言える、そして全体としては、読解においては言語知識の不足以上に前提知識の不足は非常に読解を妨げると言える。」という結果を得た。

 以上の発表を受けて会場からはつぎの様な意見が出された、

 ●読解にもいろいろあって、この様なテストではポイントを捕らえると言う読み方については調べられていない。

 ●語彙レベル分けテストを結果がよりはっきり分かる様難しい物にしたほうが良かったのでは。言語能力がはっきりわかれているグループで調べた方がグループの差異がより顕著に分かったのでは。

 ●グループを外国語学部/文学部、帰国子女/国内学習者に分けても興味ある結果が得られたのでは。

 ●個人情報を考慮しても興味深いのでは。

 ●top-downストラテジーを元々持っているのが上位群であって、下位群につけさせるのは無理ではないか。母語での読解においてさえも同じ問題はある。つまり日本語の学習の仕方が外国語のテキスト理解の方法にも当てはめられるのでは。

 ●笑い話の読解は純粋に読解力を調べるテキストとして適当か。

 ●もう少し長いテキストで調べたら異なる結果がでる可能性がある。

 常盤さんの発表は、語学を教えているわれわれにとって学習者をどの様に導き、指導して行くのかのヒントになったと言える。

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■例会報告2

 私はなぜフランス語を教えるのか (土屋良二さん)

 土屋さんは教えている5つの大学で学生たちに1)授業に希望する事、2)フランス語を学習していて良かった事、3)よくなかった事をアンケートしてつぎの様な回答を得た。

 1)楽しく、ゆっくり、分かりやすく、丁寧におしえて欲しい、使えるものにしたい、フランスの話を聞きたい。

 2)丁寧に教えてくれた、生のフランス語に触れられた、等。

 3)取っつきにくい、覚える事が多すぎる、発音が難しい、等。

 以上の発表の後、さて我々教えている側にとって@どの様な時に充実感を感じ、Aどの様な時に虚無感に陥るかをグループで列挙し発表した。

 @使えた、映画等で分かったと言われた時、継続の意思を示された時、積極的な反応、実生活に生かせる(仏検、留学)質問が出た時、学生の成績が良かった時、学生と良い人間関係が結べた時、目標にされた時など。

 Aフランス語不要論、難しいと言われた時、学生の授業態度、優れた学生の裏切り、カリキュラムの問題、等。

 われわれにとって至福の一瞬は、我々教師の要求と学生の要求が一致したと感じる時であり、また教師としてフランス語を通して学生たちに学問に対する興味を喚起し、学問に対する姿勢を植えていると感じる時である。つまりこれは教師という自己表現の一方法への是認を意味するからである。

 教師の醍醐味は単に語学を教えるのではなく、学生達が異言語を通して異文化を理解し、自国文化の再確認から自分のアイデンティティーを発見する過程に協力できるという楽しみではないだろうか。

(Y.T.)

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Péka Info

 年間スケジュール決定!

 昨年度から始まりましたが、4月の例会で今年度も年間スケジュールが決定されました。今年はさらに、田中幸子さんのご尽力により、最後の会を除き(「来年のことは鬼が笑いますから」と事務の方から断られたそうです)会場まで決まってしまいました。えっ、もうNewsLetterを読む必要がなくなった?まさか…

<日程>

2回   1996615

3回            928

4回            1026

5         1214

6回   1997222

〈会場〉

 上智大学四谷キャンパス7号館2階第6会議室(ただし、第6回に関しては未定。決定し次第お知らせします)

(H.N.)

 

次回のお知らせ

●日時:615()14h30?17h30

●会場:上智大学四谷キャンパス7号館12階第6会議室

●テーマ:宿題を考える(藤井宏尚さん)

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