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NO.33

 

タイトル:コミュニケーション能力と音声面を重視した教授法の試み 

担当者:白百合学園仏語科

テーマ:実践、教材

キーワード:中学と高校のフランス語、教材作成、
コミュニケーション

 


Péka Pédagogieを考える会

NEWSLETTER 331

le 15 sept. 1995

 

102東京都千代田区紀尾井町7-1

上智大学外国語学部

田中幸子研究室tél.03 3238 3742

郵便振替口座O0120-1-764679 PEKA

 

■例会報告

 コミュニケーション能力と音声面を重視した教授法の試み (白百合学園仏語科の皆さん

 夏休みをタヒチで過ごされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。フランス版尊師の虚言にフランス人自身が気づくのはいつのことでしょう。悲しみと怒りの日々が統いています。

 さて今回の実践報告もessai、といってもこちらはためになるessaiです。硬直化した文法中心の授業から耳と口を最大限に使って生徒の積極性を引き出す創造的な授業への脱皮を計る白百合学園仏語科(椎津ニコルさん、内藤真千子さん、荻野雅子さん、八岡裕子さん、水野美恵子さん、伊賀山かおるさん、目黒ゆりえさん)の試みが発表されました。92年に始められ6年で1つのサイクルをなすこの試みは今年4年目。現在進行形の生々しい報告です。

 第1外国語として仏語を中・高生に教える白百合では、それまでのテキストLa France en Directの内容が現在に合わなくなったために、4年前、中学生向きとしては当時最新で、平易な内容を持ち、文法・語業の負担も軽いDiabolo Menthe(以下D.M.と略)に教材を変更、それに伴いこの教材に不足する文法のまとめと練習問題(oral, écrit)を副教材として自主制作することになりました。今回とりあげられたのはその副教材です。白百合の1外仏語の生徒数は1学年40?50名、今年度中122名、各学年2クラス編成で教員10(うち仏人2)が担当、1外ですから仏語受験を前提として授業は中1から高3まで週5?9時間あり、中1から中3までは週5時間全部をD.M.に充てています。D.M.は高1まで続きますが,ここでは週3時間、残り週3時間は文法の授業になります。D.M.と副教材で仏語の基礎が決まってしまうわけで、学習効果を高めるために、日本人教師が文法、仏人教師が会話という分担を廃し、すべての授業で原則として仏語を用いることになりました。各学年2名の教師が分担し、連絡を密に取り合いながら同一曜日に同一教師が2クラスとも教えるという形で、クラスによる進度の差をなくしています。

 授業は中1?高1いずれもまずD.M.のテキストから入って概要を把握したのち、副教材によって口頭練習を繰り返して定着させ、まとめとして、絵を見ながら習得した事項を実際に運用する訓練に至るという3段階をとり、独自に作成した絵を多用してできる限り日本語を用いずに発話を導いてゆくところが特色です。文法の説明のあとの口頭練習はカセットテーブの問題を聞かせて答えさせる練習と絵を見ながら文を作らせる練習からなり、文は正しいイントネーションと発音で言えるまで何度も繰り返させます。そののちécritの練習問題のプリントを配布し、口頭練習で学んだ同じ文を今度は書くことによって確認、定着します。授業中に全部できない箇所は宿題として家でテープを聞きながら完成。プリントは提出させて添削します。副教材は仏人教師が原案を作成、担当者全員で検討の上完成したもので、内容はD.M.のテキストに関するvocabulaire、文法のまとめTableaux de grammaire、練習問題Entaînement oral et grammaticalから構成されています。どの学年でも授業に共通していることは、「まずフランス語が言えること」を重視し、教室では文字は見ないで、常に教師のほうを向かせ、聞き・話す訓練を徹底している点。宿題となる練習問題はテープを聞かなくてはできなくなっており、「耳の良い子が出てくる」のももっともなことだと思われました。

 学年ごとの具体例を少し挙げてみます。中1Tome I Leçon 1 から21が学習範囲で、たとえば挨拶と安否の表現を習う第1課では、主語代名詞と動詞al1erの説明のあと、握手している2人の人物を描いた絵を0HPで見せ、主語に注目しながら挨拶の会話を言わせたり、元気そうな人物の絵を見せ、動詞に注意しながらSuzanne va bien.などの文を言う練習をします。次に絵を数コマの連続したものにし、積極的に発言できるよう教師が様々な問いかけをしながら、生徒が口々に言う表現を拾い上げて少し長い会話を完成させて行きます。学習項目の区切り毎にプリントを配布し,そこまでに練習した文が穴埋めの形で出題されている練習問題にテープを聞きながら書き込んでゆきます。

 中2Tome I Leçon 22 からTome II Leçon 7まで進み、まずテキストのテープを聞き、繰り返し発音練習。内容について仏語の質問に答えさせます。vocabulaireをテープのあとについて繰り返し練習して語業を定着させたあと、練習問題に入ります。trouver + qc./qn. + adj. faire + inf. + qc. à qn.といった表現を指示された語集や絵を見ながら口頭で言わせる練習は参加者が生徒となってクラス授業が再現されましたが、聞いた長文を記憶し指示された形に言い換える反応のスピードは中学生のほうが上でした。参加者からは「文法練習に偏っていて、コミュニカティヴ重視とは言えない」「文法的には間違っていないが普通はこうは言わない」といった厳しい意見が出されました。「大学入試の要求する書き換え問題を視野に入れるとこうした文法練習も必要」という意見もあり、いろいろな表現を習得させようとするあまり、生徒に作らせる文が不自然になりやすく、情報の伝達ではなく文を作ることそのものが合目的化してしまうのはパターン練習が陥りやすい問題でしょう。

 この問題を解決する試みがまとめとして行われるProductionという運用能力のトレーニングで、プリントは使わずOHPで絵だけを見せ、必要に応じて語彙をカードや身ぶりで示しながら話を自由に作らせてゆくというものです。中1は語彙が少ないので数課に一回、中2が一番多く、中3は抽象的な表現の練習が増え、絵が書きにくかったとのこと。高1では絵を見ながら物語を話させるのですが、自由な会話にはなかなか発展しないようです。こうした授業形態に対しては「つねに教師の側がある答えを想定していてそれを言わせる誘導的な授業で、会話が発展しないのもそのためでは」という参加者の指摘もありましたが,「夏休みは何をしたかとただ尋ねても簡単に生徒は口を開かない」「発言を導かなくては特定の生徒だけがべらべらしゃべり、他は黙ってしまう」という状態から考えると中学生の場合は誘導的な方法がある程度必要なのも事実でしょう。誘導的な授業から創造的な授業への発展にはD.M.の写真や地図も利用してはどうかという意見もありました。確かに、習った表現を用いて夏休みに作文をさせるとかなりよく書いてきたそうで、生徒の何かを言いたい気持ちをいかに刺激するかの問題でもあります。そのひとつとして、絵にとらわれないロール・プレイの試みも紹介されました。地図を渡して道を聞く、グループで役割を決めて家族の会話を作らせる(たとえば自動車を買おうという話題をめぐって父母娘の3人が賛成、反対のやりとりをする)といった型にはめない練習は参加者からも支持されましたが、「条件が厳しくいつもできるわけではない」「評価が難しい」というのが実際に試みた側の感想でした

 以上が白百合学園の試みの概要です。この方法を4年間試みた全体的な感想として「仏語を聞き・話すことへの抵抗がなくなり、授業中の生徒の集中力・積極性が飛躍的に高まった」「言語習得のmotivationが高まった」「発音が良くなり自然なイントネーションが身に

ついた」「文法のいわゆる書換え能力も落ちていない」などの長所と「綴り字の間違いが多く、文字を見て発音することが苦手」「宿題が多い」「教師の負担が大きい」「大学受験の取り組みが高2からで間に合うのか不安」といった問題点が挙げられました。授業、宿題、単語テスト、会話小テスト…「聞くこと・話すこと」の重要性を徹底して教え込み、自己表現の喜びへと導いていく過程を見ていると、一種の凄みさえ感じられ、特に構文作る能力の向上には感心させられました。コミュニカティヴ・アプローチとは異なった、音声面から見た文法練習の一つのあり方として考えるならば、中高にとどまらず大学でも利用する可能性は十分にあるのではないでしょうか。

(R.T.)

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 Pékaの運営について

 例会の冒頭、運営に関して2つのことが話し合われました。第1点は中川努氏御遺族より頂いた寄付金の使い方について。切り崩して使っていく、賞金や奨学金として一度に使ってしまう、基金として利息分で教育法セミナーの受講者を援助するなどの案が出されましたが、結論は持ち越しました。第2点は今後の例会の発表の形式について。ゆるやかな形で年間テーマを決め、方向性を持たせてはどうかというアイデアに関心が集まりましたが、テーマを絞り込むまでには至りませんでした。

(R.T.)

 

Péka Info

 次回例会について

 ここ10年ほどフランス語文法の授業を担当してきて、学生の反応が年ごとに鈍くなってきてていることを痛切に感じています。おそらく皆さんも同じような思いを抱いていらっしゃるのではないでしょうか。

 そこで次回の例会では、第2外国語としてのフランス語文法をどのように教えたらよいのか、どのような困難があり苦労しているのはどんな点か、活気に満ちて魅力ある授業にするにはどうしたらよいのか、といったことを皆さんと一緒に考えたいと思います。

 なるべく具体的に議論・考察するワークショップのようにしたいと思いますので、できましたら文法の授業でお使いの教材と前期(1学期)の試験問題(その結果の簡単な分析もあれば助かります)をご持参ください。

(J.N.?文貢:H.N.)

 

 次回のお知らせ

 ●日時:1995930()

     14h30?17h30

 ●会場:上智大学四谷キャンパス7号館11階第2会議室

 ●テーマ:文法の授業を考える(根岸純さん)

   なお、左記Péka Infoもご参照ください

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