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NO.201

 

 

テーマ:外国語教育における理論・信念・現実
問題提起と司会:鵜澤恵子さん

◇ 2023年度の年間テーマは「内省から挑戦へ DE LA REFLEXION AUX CHALLENGES」です。


03/09/2023

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     PEKA (ペダゴジーを考える会) News Letter no.201
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■□■ 次回例会のご案内 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

日時:9月16日(土)14:30〜17:30

テーマ:外国語教育における理論・信念・現実
問題提起と司会:鵜澤恵子さん

場所:慶應義塾大学SFC 東京サテライト 三田東宝ビル4階(港区三田3-1-7)
*Zoomでもご参加いただけます。

◆ テーマ:年間テーマおよび例会の設定

2023年度の年間テーマは「内省から挑戦へ DE LA REFLEXION AUX CHALLENGES」です。

◆ 2023年度の例会日程は、9/16, 10/21, 12/16, 2/17の予定です。
いずれも土曜日の14:30-17:30です。変更になる場合もありますので、毎回の例会案内をご確認ください。

 

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■■■例会報告 (2023/6/17) //////////////////////////////////////////////
 6月の例会は「評価者としての教師の視点」というテーマで、初修者クラスに既修者がいる場合などに、教師がクラスの一部に対してのみ別の評価基準を考えることの是非について話し合った。

1, はじめに
既修者と言っても一様ではない。例えば、中国語では社会の中にニア・ネイティブが多いため、既修者と初修者を徹底的に分離したいこともあるようだ。確かに、既習者の数が多ければ、初修者とクラスを分ける価値は高まるだろう。
クラス分け方法は、国内外の資格試験のスコアを提出したり、プレースメントテストを行ったりすることが考えられる。しかし、レベルの高いクラスに入ることを避ける既修者もいる。帰国生クラスなどの特殊な環境を嫌ってわざと資格試験のスコアを少なく申告したり、プレースメントテストをあえて受けなかったりする。学生がこうした行動を進んで取る背景は何だろうか。
そもそも、語学の初修者クラスは、大学においてもあまり類をみない特殊な空間である。レベルの差はほとんどない想定で、必ずしも全員に目が届かないような規模のクラスが編成されることがある。それでも、制度的に作り出そうとしている均質さが機能しない実態があることも多い。教務課や障がい学生支援室から特別な配慮を依頼される学生がいたり、ネイティブの話者がいたり、日本語(や時には英語までも)が不自由な留学生がいることもある。既修者の存在もまたクラスという集団の持つ複雑さの一つと言える。
また、語学は学習者の持つアイデンティティーに関わることがある。あくまで初修者でも家族や本人の現地滞在歴などが学習者の人格にとって重要なこともあるし、学習言語が母語で会話は流暢だが読み書きの学習経験が少ない者もいる。
その結果、プレースメントテストの結果や既修者クラスがない環境が、自尊心を傷つけたりモチベーションを失う原因になったりもする。この点、制度的なカウンセリングの機会が準備されていたとしても万全ということはないだろう。
さらに、既修者の中にはチャレンジングな環境を望んでいない者もいる。専門科目に力を費やす目的から語学は手を抜いて今までの貯金で乗り切ろうとするものや、隠れ既修者となって楽をしようとする者がいる。
既修者を受け入れたり隠れ既修者がいたりした時、クラスの人数が多ければ多いほど、現実的な事情で既修者と初修者を同じ基準で評価するしかなくなるわけだが、この最大のデメリットは、そのどちらのモチベーションにも悪影響を与えることがあることだ。
既修者も上述したように多様な要望があり、当人に最適化されていない授業なのだから、教員の方針や授業内容を不満に思うこともある。初修者の側としては、シラバスに示した評価基準やGPAとの関わりで不満を持つものがいる。とりわけ、SやAの絶対数をコントロールしている大学では、既修者に対して同じ基準で評価すれば不満が出ることも理解できる。実際には文法知識よりも言語運用を求めたりする教員がいるなど、評価されるスキルは授業毎に異なっていて、必ずしも既修者にとって容易な授業内容になるわけではない。
しかし、この点を理解せず、安易にスタート地点が違う者たちに同じゴールを求めているかのように感じてしまう者がいても不思議ではない。だからといって、学生同士は当初から知っているだろう隠れ既修者を、教員が成績照会の時までそれと認識できないこともあるだろう。

2, 例会参加者の報告と実践
それでは、既修者の存在が明らかだったとして、シラバスに記載されていない別の基準で評価するのだろうか。評価基準はクラスの目標(objectif)にそって作られる。背景には、こういう能力を育てたい、これができるようになって欲しいという目標がある。教員によっては、既修者は既に目標を達成しているのだから、テストだけ受けに来て合格すれば良いという基準の者がいるという話も聞いたことがある。しかし、例会参加者はそれとは逆に、とりわけ出席を重視していた。

・他の学生がその既修者を頼りにするのは良いが、頼りにし過ぎるような状況も起こる。既修者が積極的に解答をしてくれる場合などは、他の解答を待つように暗に誘導する。しかし、既修者が発言しないように誘導した際、ほかの学生も黙ってしまうことがあった。他にも、わかってもすぐ言わず、既修者の発言を待つような状況ができたことがある。
・公平感が失われると、学習が進んでいる人との学力の差を見て諦める学生もいる。
・競争意識に欠けるクラスでは、誰か助けてくれる人がいると頼り切ってしまう。クラスに対して問いかけてみて、誰も思いつかない場合、既修者に教室中の視線が集まることがあった。
・既修者のクラスの中での役割を作って行く必要がある。クラスで仲良くする中で、その既修者の学生にもやるべきことがたくさんある。
・リアクションペーパーを通して個別のケアをして満足して貰った結果、モチベーションが下がらず、準2級を取得するまで成長した既修者がいた。クラスの中で休み時間にその学生に質問しに行くという状態が生まれていた。既修者の存在は多かれ少なかれクラスに影響を及ぼす。
・早口言葉のトーナメントで、途中で敗北した既修者がたいそう悔しがっていた。身体性を伴った活動など、いろいろな評価基準が授業中に見える状態を作る。教員が褒める基準に対して学生は敏感だが、この褒めるポイントをずらすことで、様々なことが評価されると理解して貰う。
・既修者も、学習継続する者と初修者に追い抜かれる者がいる。努力しなくてもできる部分があるから、試験などの努力が求められる時に負けてしまう。
・特別な課題を課すと喜ぶ学生と、初修者と同じペースで楽したい学生がいる。当人の希望をカウンセリングすることが重要。
・レベルは制度的なものだが、学びは個人的なもの。既修者個人に課題を出すのではなく、授業外でラーニングコミュニティが生まれるような活動をクラス全体に対して推奨し、積極的に学びたい人が学ぶ環境を奨励すると良い。ある時、duolingoを推奨したことがあるが、個人の影響がクラスにも還流することがあった。成績とは別のところでduolingoを続ける学生に尊敬が集まり、追随者が出てきた。Duolingoの手法はtranslationと聞取りで古いが、面倒見が良いのが利点だ。
・授業外の生活の中で定期的にフランス語を意識させることは良い。例えば、駅から学校まで、フランス語で呟くように指示していた。
・高校の授業と大学の授業は違うから、2カ月程度たつと既修者と初修者の差は減っている。その中で既修者の実力の伸長は当人にも教員にも見えにくい。教員はあらかじめ、この見えにくさを指摘しておくとモチベーションの低下に配慮できる。
・個人ではなく、グループを評価する時に既修者は活躍できる。
・既習・初修に関わらず、前の課で出てきた表現を再利用するなど、授業でやったことを踏まえて表現できる点を評価したい。

例会では様々な既修者を受け入れた経験から多様な悩みが聞かれたが、往々にして、クラス内の個性が目立つ時ほど、教員自身が評価基準を考え直す機会になっているようだった。

3, 学生と教員の評価のずれ
近年では、シラバスの記載や他人の成績と比較して、教員に評価基準と結果の関係につき説明を求める例も増加している。その結果、深刻な問題が露見して全学的に共有されることもあるが、概してそれとは逆に学生が評価基準を理解していないと感じることが多い。

・既修者でも初修者でも、学習スタイルに対する先入観を持っていることがあり、授業は聞いていなくても試験ができれば良いと考えている学生がいる。それゆえ、授業中に求めていたようなことを試験で問うと答えられないことがある。
・実際に文法知識を運用できないのに、文法だけできればいいという態度の学生がいる。
・板書するだけで何も考えていない学生がいる。中等教育でそういう学習スタイルを続けていたのだろうから、教員がくり返しケアする必要がある。
・一般的な実力テストのような問題と試験内容が異なる場合、小テストや中間テストで複数回に渡って形を示すべき。
・図式的な理解はできていても発話しない学生など、個々人の習得するスキルはアンバランスな部分がある。教員が自明だと考える評価基準とは違う能力を持っている学生がいる。
・いつも同じ基準に晒されて生きているのでは、学生はつまらないだろうと思う。

したがって、世の中には様々な、教員には教員ごとに異なる評価基準があるのだということを理解しつつ、自己・他者・物事を客観的に見る目を養う意味で、評価とは学習者が基準自体を考えたりこれと対話したりする機会でもある。他のクラスで重視される基準が/だけが、重視されるわけではないということを理解して貰うのが第一歩だろう。
こうした話の延長で、自己評価を取り入れた授業活動にも話題が及んだ。

・自己評価として提出された数値自体は、これを真に受けたり、期末評価に取り入れることはできない。それよりは、自己評価基準を再考するなど、これと対話している過程を教員は評価するのではないか。
・自己評価は、社会でも必要な自己評価の練習の機会とするべき。学びのストラテジーや学習法を学ぶ態度を評価したい。フリーライダーになるのも自己評価を盛るのも1つのスキル。
・学習者が提出した自己評価に対して教員が批評できないと、自己評価活動を取り入れる意味はない。嘘をつくずるい学生がいる。重要なことは結局、自己評価結果ではない。
・初修者など、何も知らない学生に自己評価をさせても仕方ない。
・To doリストを埋めてきた学習者に対して、該当する活動をもう一度やって貰って教員がチェックする。
・自己評価結果を教員が再評価するのでは学生は嫌な気持ちになる。主体性を手にしたことで学生が得たモチベーションを裏切ることになる。
・自己評価活動は期末評価に関わるものとして使うのではなく、学生のカウンセリングの目的で使うのも良い。

4, 評価基準の変化・派生・複数化
既修者であったり、際どい成績の学生であったり、学習障害を抱える学生であったりがクラスにいる際、シラバスに記載した内容との関連で、教員の評価基準が変わることはあるだろうか。

・クラスの目標は変えないが、目標との関わりで下位目標(sous-objectif)が派生し、これを評価することはある。
・評価基準はシラバスに示す通り、授業全体のグランドデザインではあるが、教室内の現実を意識して作られたものでもない。現実的な要請の下、評価基準を軌道修正して、その場にいる学生に合わせて変化させることはあって良いのではないか。
・評価基準を軌道修正するのは良いが、基準が変化したことを意識していなかったらそれは問題だろう。学生ともその修正を共有する必要がある。
・工場のように画一的に評価しているわけではない。
・目標は毎週確認して、マイナーチェンジも含めて、毎週のように教員が学生に何を期待しているかを述べる。
・授業中に求めていたこととは違うことを試験で問うなど、授業の仕方と評価の仕方が結びついていなかったとしたら問題だ。
・期末評価の際、寛容になる余り評価基準がだんだんブレてしまうことがある。
・成績の低い学生の場合、ダブルスタンダードになるが、その学生なりの評価基準を考えることがある。これと同じで既修者に対しても別の基準を適用して良いのではないか。
・日本語ができない学生の場合、他の学生と同じ基準で評価しては評価の仕様がなく、個々人の成長を見ていくしかない。100点満点中、20点から40点に実力を伸ばしたら、クラスの基準からすると不合格だとしても、伸び幅は比較的大きかったと言える。
・既修者が成長するのはテストの点数とは違うところかもしれない。
・寛容になるあまり基準の一貫性を失してしまっては、大学のディプロムの信頼を裏切るのではないか。
・カリキュラムポリシーの次元では、豊かな知識とそれを活用する技能、コミュニケーション力のような抽象的なものが求められているので、教員がダブルスタンダードを持っていて、かなりできない学生の微かな成長を評価したとしても、カリキュラムポリシーとは矛盾しない。

こうした議論は一般化できない部分もあるかもしれない。しかし、現在書いて提出しているシラバスが完全なものだと思っている教員も少ないだろう。テストの点とは無縁の方向に向けられた貴い努力や、周りの学生のモチベーションを高める行為などは、学生の自己評価と同じように総括的評価(EVALUATION SOMMATIVE)に換算し難い。
シラバスに示したままの基準に縛られ、優れた個性的行動を評価できないとしたら、忸怩たるものを感じないだろうか。授業を通して今まで意識したこともなかった部分を評価したいと思うことすらある。
したがって、シラバスとは異なる複数の評価基準を考えて現実に出会った学生に最適化したり、元々の基準を変化させたりすることは、その後のシラバスの内容を考える上でも有益なのではないだろうか。
(T.S.)

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