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NO.197

 

 

◆ テーマ:文法を教える順番

 


03/12/2022

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     PEKA (ペダゴジーを考える会) News Letter no.197
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■□■ 次回例会のご案内 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
日時:12月17日(土)14:30〜17:30 Zoomで行います。

◆ テーマ:文法を教える順番

◎事前申込をされた方だけに招待をお送りします。
参加ご希望の方は、お手数ですが12月15日(木)までに以下のリンク先からお申し込み下さい。

◎例会前日に、ご指定のメールアドレスに招待URLをお送りします。

 


◆ 2022年度の例会日程は、以下の通りです。
12/17(土), 2023/2/18(土)
変更になる場合もありますので、詳細はニューズレターやHPでご確認ください。

 

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■■■例会報告////////////////////////
//////////////////////////////【2022/10/15@Zoom & 順天堂大学国際教養学部】

◆10月のテーマ:Le genre en question (話題提供:竹内京子さん)

◇ 10月の例会は、順天堂大学国際教養学部とZoomのハイフレックス形式により、"Le genre en question"というテーマの下で実施された。通常の例会に比べ、フランス語を母語とする参加者の割合が多い例会となった(12名中のうち5名)。
例会の冒頭、話題提供者の竹内さんにより、近年フランス語を教える上で性の問題が難しくなっている、という状況が確認された。すなわち、現在世界中で男女共同参画やSDGsのジェンダー平等が叫ばれており、日本の学校では名簿に男女の表記がなくなったり、名前を呼ぶときは男女を問わず「○○さん」と呼ぶよう指示される、といったことがある。
こうした文脈の中、男性・女性をはっきりと区別するフランス語をどうやって教えたらいいのだろうか。実際に、フランス語ではilとelleを統合したiel(またはielle)という形、また英語ではheでもsheでもない単数のtheyという形の使用を主張する動きも出てきている。言語の切り分けはそれを用いる人の世界観の切り分けでもあると叫ばれて久しいが、こうした社会的・文化的な流れに応じて、フランス語の文法の枠組みが変わる可能性はゼロではないとも考えられる。
そこで、私たちがフランス語を初めて勉強したとき、あるいは教師として教え始めたとき、「語彙や文法の仕組み」と「現実の性」との関係で、疑問や違和感を感じたことはなかったか、また学生がそうしたものを感じていないか、それをPEKAの皆で話し合いたい、というのが、今回のテーマを竹内さんが提供した意図であるという。
参加者は、まずZoom組と対面参加組に分かれ話し合った。その後全員で集合し、各自の体験や考えを述べ合った。

◇ まず、無生物の名詞の男女については、私たちには変えようがない。Le soleilとla luneの男女を逆にすることは誰にも出来ない。無生物の名詞の男女は完全にアプリオリに決まっているものであり、その証拠に、ドイツ語では太陽は女性名詞、月は男性名詞である。「男性名詞・女性名詞」という名称が混乱を招いているのであり、「1型・2型」「A型・B型」でもいいのではないか、という意見もあった。
しかし、人間の話になると事情が込み入ってくる。
たとえば、ある参加者によると、自己紹介の練習をしているとき、見た目は女性に見える学習者がJe suis japonaiseと言いたくない、と主張した。どう反応していいか分からず、「じゃあ言わなくていいよ」としたが、思い返してみると、言いたくなかった理由は性別なのか、あるいは国籍なのかは不明である。
この報告については、言わなくていいという選択肢を残すことが重要であり、年齢でもなんでも言いたくないことは言わなくていい、詐称もOK、フランス語として間違っていなければそれで問題ない、という意見があり、多くの参加者が賛同した。

◇ 一方、見た目が女性の学習者がJe suis japonaisと言った場合、1)自己認識は女性だがフランス語を間違えている、2)自己認識が男性で意図的に言っている、という2つの可能性があるので、それは確かめなくてはいけない。「その言い方だと男性として扱われるけれど大丈夫?」と確認し、自分で選択させる。そしてその後の授業では本人が選んだ性でその学習者を扱う(il, elleの別など)。
これは実践例として参加者の一人が報告したことだが、それでまったく問題ない、と他の参加者もその方法に同意した。
現実として、どちらとも認識していない人、あるいは両方と認識している人もいるが、フランス語を使う以上はどちらかにしなくてはならず、そこは繊細な問題になってくる。
近年ではiel, ielleといった代名詞を使う動きもあるが、それはまだごく一部での使用に限られている。参加者の中のフランス語母語話者からは、「違和感がある」「ものごとをより複雑にしている」という否定的な意見が聞かれた。「男性形がneutreな性なので男性形を使うのでは」という意見には、男性形をneutreな性と捉えること自体に疑問を呈する参加者もいた。

◇ また、学習者が感じる疑問の一つにilsの使い方がある。女性30人、男性1人でもilsになることに違和感を覚えるのだ。
この問題に関しては、フランス語母語話者にも疑問に感じる人がいるという証言があった。おもにフェミニズム運動を進める人たちだが、ilsのルールはアカデミー・フランセーズの男性達が17世紀に作ったルールだと反発し、男女の人数の割合で決める、またはすべて女性形にする、などの方法を採る動きもあるということだ(まだまだ一般的ではないが)。
FEMINISATIONが進んでいるケベックなどと比べると、フランスではアカデミー・フランセーズの権威が大きく、言語に関しては保守的であり、男性優位な側面があるのは否めない。Ilsの用法もその一つの例だろう。そして、仏検やDELF・DALFといった資格を取得するためにはアカデミーが推奨するフランス語を学ばなければならない。
しかしその一方、規則は今まさに変化している最中だ。
アカデミーはaccent circonflexeの使用に関して寛容になった。また、かつては女性の教師もun professeurと呼んだが、une femme professeurとも言うようになり、そしてune professeureと言ってもいいことになった。2012年以降、公式文書の中ではmademoiselleを使わないことになった(=男性同様、女性も未婚・既婚を問われなくなった)。
学習者には、アカデミーの規則を教えるのと同時に、事態は変化している、多様化している、ということも示すべきだろう。

◇ 教室での自己紹介が繊細な問題になるのならば、架空のプロフィールを設定し、その人物になりきり自己表現をする、という方法もある。これに関しては、かつてFLEで提案されていたsimulation globaleという教育法が紹介された。
L'immeuble, Villageといった教科書で展開された方法だが、学習者が最初に、名前・年齢・職業・家族構成等について好きなプロフィールを自分で設定し、それを元に自己表現や他者とのやりとりを学んでいくのだ。
この方法に関して、「言語を学ぶために他の人になる必要はない」「自分の名前を変えることは本当の自分を否定すること」というネガティブな意見があった一方、実際にsimulation globaleで教えた経験を持つ参加者からは、「3泊4日の合宿などでやると盛り上がる」「ゲームとしてやっているものであり学習者は面白がってやっている」「現実の自分のことだけを話すよりも飛躍的に語彙力・表現力が伸びる」といった肯定的な意見も数多くあがった。
Simulation globaleを本格的に授業で採用するのではなく、柔軟に取り入れればいい、という意見もあった。教師も学習者も、教室の中でのアイデンティティがあり、それは必ずしも本当のアイデンティティと一致するわけではない。家族の話をするのを嫌がる学習者は多いが、その場合、本当のことを言う必要ななく、フレクシブルに設定していいことにすればよい。
これはつまり、本例会の最初のほうで発言があった、「言いたくないことは言わなくていい、年齢詐称もOK、フランス語として間違っていなければそれでいい」という指摘とつながる。そういったクラスの雰囲気を教師が作り出すことが肝要であるといえる。

◇ 日本語であれば「私は日本人です」で済むところを、フランス語にした途端に男女を表現しなければいけないことに違和感を覚える学習者が近年増えているようだ。例会の最後に話題提供者の竹内さんが語った「学生の気持ちを考えつつ、みんなでフランス語を楽しめる、日本語とフランス語の違いも楽しめる気持ちで勉強できるとよい」という言葉が印象的だった。
(mk)

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