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NO.195

 

 

◆ 9月のテーマ:授業形式の多様性について考える(話題提供:澁谷与文さん)

 


01/09/2022

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     PEKA (ペダゴジーを考える会) News Letter no.195
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■□■ 次回例会のご案内 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
日時 : 9月17日(土)14:30〜17:30
場所:Zoom & 大東文化会館(東京都板橋区徳丸2-4-21)

◆ 9月のテーマ:授業形式の多様性について考える(話題提供:澁谷与文さん)

◎ 9月の例会は、ハイフレックス形式で行います。9月15日(木)までに、来場する方も遠隔参加の方も、こちらの参加申込フォームにご記入下さい。Zoom招待リンクは、例会前日にお送りします。
https://forms.gle/ByCsPmXsq7qB1qAP8


◆ 2022年度の例会日程は、以下の通りです。
9/17(土), 10/15(土), 12/17(土), 2023/2/18(土)
変更になる場合もありますので、詳細はニューズレターやHPでご確認ください。

 

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■■■例会報告////////////////////////
//////////////////////////////【2022/6/18@Zoom】

6月のテーマ:教室での学習とオンラインでの学習:授業外でもできること、授業だからこそできること
(話題提供:小西英則さん)

 近年のICTの目覚ましい発展に伴い、フランス語教育を取り巻く環境も大きく変化している。例えばYouTube上には外国語学習用の動画がいくらでも見つかるし、1人で外国語が学べるアプリやサイト等も、増加の一途を辿っているようだ。そうした中で、従来通り大学でフランス語を教える意義や必然性について、問い直す声が聞こえてきても不思議ではない。
それに加えて、ここ2年間のオンライン授業を経験して、教える側にも学ぶ側にも「授業」というものの捉え方に変化が見られるように思われる。ツールに関して言えば、オンライン授業ではパソコンとインターネットが双方で使えて多くの点でとても便利だったので、教室での対面授業に戻っても、その利点をなるべく失わないように工夫がなされているようだ。
学習の時間と場所に関しても、以前は通常の教育において、教室での授業の重要性はいわば自明のこととされてきた。しかし今日では、様々な学びの形態が可能であることが社会全体で共有された結果、確かに教室での授業は特権的な場ではあるけれども、実は多様な選択肢の中の一つにすぎないという相対的な位置づけをされるようになっている。

 6月の例会では「授業外でもできること 授業だからこそできること」と題して、国立大学1年生(理系)の選択必修科目「フランス語初修」における今年度の試みが紹介された。この授業の履修者は33名で、ほぼ全員が初学者である。前期は週2回、後期は週1回の授業があり、それを1人で担当する。
授業計画に当たり、大学側から特に指示はなかったが、前年度の同類のクラスのシラバスを見ると、すべての授業で共通の文言が使われていた。授業の目的は「文法および講読の基礎を固める」と明記され、授業計画は、30の文法項目を指導すると書かれていた。
教科書は授業担当者が自由に選べるが、昨年度使用されたのはどれも文法項目に沿って構成された厚めの教科書で、文法解説の後には必ず豊富な練習問題がついているものだった。要するに、この大学では初学者に対して、伝統的な文法訳読法の授業が連綿と行われているようだった。
文法訳読法の最大のメリットは、比較的短期間で、標準的なフランス語で書かれた文章なら、それを日本語に訳すことによって一応意味が理解できるようになるということだろう。もちろんそのためには、主要な文法の規則や動詞の活用等を一通り覚えておかなければならないし、知らない単語は一つ一つ辞書で意味を確認するため、はじめのうちは短い文章でも解読するのに相当な時間がかかるものである。
一方、たとえこれができるようになったとしても、それをもって「フランス語を習得した」と言える訳ではないことは言を俟たないだろう。
文法訳読法によって身につけられる能力は、それを十分に発揮するためには幾重にも制限された条件が必要であり、言語の運用能力としてはかなり偏った限定的なものに過ぎないからである。文法訳読法の弱点の一つは、文字に書き留められたフランス語に基づき、文法規則の理解と日本語訳を重視する学習法であるために、ことばが本来持っている発音やスピード、イントネーション、そして会話で求められる瞬時の反応といった、通常の言語活動にとって不可欠な諸要素が、どうしてもなおざりにされてしまう点である。

 話題提供者は授業の目標を次の2点に設定した。まず、他の同様のクラスで文法訳読法によって培われる能力は、自分のクラスの学生にも同じ様に身につけさせる。その上で、文法訳読法だけではなかなか養成できないオーラル・コミュニケーションを中心とした能力も、できる限り発達させる。これにより、なるべくバランスの良い言語能力の育成を目指すのである。

 話題提供者はANL(神経言語学的アプローチ)の教授資格を有し、ここ10年近くにわたって日本の大学でANLを実践してきた経験を持つ。
ANLとは、文法訳読法のおよそ対極に位置するとも言える教授法で、最初は文字も日本語も文法説明も使わずに、直接フランス語で話すことから始める。手順としては、まず一つのテーマについて、いくつかの表現パターンを使って学生が自分達のことを話せるようになる。次に同じテーマについて書かれた文章が読めるようになり、それを元にして自分の文章が書けるようになる。最後に、誰かに作文を音読してもらい、その内容について質疑応答したり人に報告したりして、様々な形でフランス語で議論をする。
参加者全員が正しいフランス語でオーラル・コミュニケーションを行うことを何よりも重視するANLは、教科書も必要とせず、後者の目的(オーラル・コミュニケーションを中心とした能力)を達成するには最適であろう。残る課題は、授業時間内にANLを実践する時間をできるだけ確保するために、なるべく時間をかけずに文法訳読法の成果を挙げるための方法を探ることだった。

 話題提供者がそこですぐに思い当たったのが『グラメール・アクティーヴ』(朝日出版社)だった。文法訳読法に適したこの教科書の最大の特徴は、通常の印刷された教科書に加えて、それに完全に対応した自律学習用のネット教材が公開
(https://text.asahipress.com/text-web/france/active_call/gaf3/menu.html)されていることである。
そのネット教材では、学習者の視点に立って分かりやすく丁寧に文法が説明されている上に、ネイティブの発音もその都度聞くことができ、学生が1人で練習問題の正誤が確認できるようになっている。まさに痒い所に手が届くような細かい配慮が随所に見られ、まるでライブ授業に参加しているかのような錯覚に陥るほどである。
このネット教材はコロナ禍以前から存在し改訂されてきたものだが、対面授業が行えない時期には学生がこれでフランス語を自習し、大いに効果を発揮したと言われている。
報告者は何かの学会か研究会の席で、ある参加者がこのネット教材に関して、著者に直接抗議をしたという話を本人から聞いたことがある。その人曰く、こんなものを作られたら困る、フランス語教師の職がなくなってしまう、と。
報告者自身は必ずしもこの発言内容に同意する訳ではないが、そこには何か重要な問題が含まれているように思われて、強く印象に残っていた。

 最終的に、話題提供者は概ね次のような形式で授業を進めた。授業の前にあらかじめ教科書の範囲を指定しておき、学生はネット教材や辞書を用いてその範囲をしっかり予習してくる。授業の前半は、学生同士で予習内容について話し合わせ、そこから出てくる質問やコメントに教師が答える。必要に応じて教師が説明を補足したり、学生の予習状況や理解度等を確認したりする。
後半は残った時間を利用して、ANLで学生と実際にフランス語で会話しながら、表現の定着を図る。後半に扱う表現は、前半の内容とリンクしていてもいいし、特に関連がなくても構わない。

 話題提供者はこの教科書を授業で使うのも、この大学でこのようなクラスを担当するのも初めてだったため、実際に授業が始まってからは学生の様子を注意深く観察し、授業のやり方についても学生との対話を重ねて最適な形を模索した。その結果、当初の予定に多少変更を加えて、予習の重点をネット教材から教科書へ移したり、教科書の一部を後期試験の範囲とすることによって前期試験の負担を軽くしたり、前期の真ん中で模擬試験を行ったりした。
6月例会の時点では、週2回の授業で前期末には教科書のほぼ9割を終える進行ペースが確立し、学生のほとんどがきちんと予習をした上で授業に臨んでいるようだった。ANLに関しては、毎回残された時間は限られているので、授業中はとりあえず「話す」ことに集中することにした。
前期の間に、大小10個程度のテーマを扱うことになるだろう。その会話で扱った内容は、授業後にGoogleドキュメントで文章と音声ファイルを共有し、学期末にそれらのテーマについて自分の作文をレポートとして提出してもらうことによって、「読む」と「書く」の簡単な代用とする予定である。
後期は週1回の授業になるが、教科書はあと少しで終わるので、いよいよANLに十分な時間をかけて、話す・読む・書く・議論するというサイクルがフランス語だけで実現できるはずである。それに加えて、教科書を終えた後は、1jour1actuのようなサイトを利用して、学生が選んだ記事をどんどん読んでもらおうと思っているという。
その読解では、オンラインツールやグループワークなどをうまく活用しながら、いかに授業時間を消費せずに一人一人に深い学びを実現してもらうか、考えを巡らせている所だそうだ。

 例会の参加者からは、学習者の負担が大きすぎないかという指摘があった。確かにネット教材を見ながら教科書を1人で予習するのは、結構大変なはずである。ただ、ANLの時間を少しでも多く捻出するためにはその予習が必要なのだということを、学生はよく理解してくれていると思うとのこと。
ANLのようなやり方で外国語を学ぶのは彼らも初めてであり、そこでいきなり出会うフランス語の表現やANLの学習効果に興味津々で、毎回目を輝かせて参加してくれているという印象を持っているそうだ。
また別の参加者からは、むしろ最初からANLを中心に据えて授業を行い、そこで出てきた文法事項を後から教科書とネット教材で復習させる方がいいのではないかという意見があった。それはまさにその通りで、今回はまだいろいろなことが手探りの状態だったのでそこまでの勇気はなかったが、もし来年度も同じ機会が与えられれば、前向きに検討してみたいと答えていた。

 冒頭にも述べたように、学習者を取り巻く環境は大きく様変わりしており、インターネットさえあればいつでもどこでもアクセスできる学習素材は、今後ますます便利かつ多様になっていくのは間違いない。教室で行われる授業の中で、もしそうしたものによって容易に代替され得ることしかやっていないのであれば、そのような授業は時代の流れとともに淘汰されていくのもやむを得ないのかもしれない。
一方、一人でパソコンの画面に向かっているだけではなかなかできないこともある。授業の中でこそ生じうる様々なレベルのinteractionsは、その最たるものだろう。同じ教室で一緒に学ぶ仲間がいて、信頼できる教師がいれば、いつでも誰とでも交流することが可能だ。
学習者同士で考えながら相談したり助け合ったりしてもいいし、必要があれば教師に確認したり質問したりしてもいい。言うまでもなく、学習者自身が主体的に考えながら学びを深めていくには、こうした様々なinteractionsは非常に有効である。
しかも外国語教育においては、そのinteractionsを目標言語で行うようにうまく指導すれば、その効果は何倍にもなるに違いない。外国語の表現を本当に身につけるためには、実際のコミュニケーションの中でそれを正しく使うこと以上に有効な方法は、おそらく考えられないのではないだろうか。
例会参加者の1人は、フランス語だけで授業を行えば、授業中に何を話題にしようとも、あらゆるやり取りがフランス語で行われる真のinteractionsになると言った。
時代の変化の波を単なる脅威として捉えるのではなく、授業の本質について改めて考え直すきっかけにしよう。これまで授業の中で行ってきたことの中で、実は新しいツールなどをうまく利用すれば、授業外で一人でもできることはないだろうか?
学習者に過度の負担をかけることなく、それを授業外でしてもらうためには、どのような工夫をすればいいだろうか?そのようにして授業時間に少しでも余裕ができれば、それを活かしてどのような「授業だからこそできる」活動を取り入れていけばいいだろうか?

(H.K.)

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