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NO.191

 

 

◆12月のテーマは....
 発音にどこまでこだわるか(司会 近藤野里さん)
(2021年度の年間テーマ:教科書をどう使うか)


05/12/2021

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     PEKA (ペダゴジーを考える会) News Letter no.191
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■□■ 次回例会のご案内 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
◎日時 : 12月18日(土)14:30〜17:30
Zoomで行います。

◎事前申込をされた方だけに招待をお送りします。
参加ご希望の方は、お手数ですが12月16日(木)までに以下のリンク先からお申し込み下さい。

◎例会前日に、ご指定のメールアドレスに招待URLをお送りします。

 

◆ 2021年度例会予定について
2022年2月19日を予定しています。会場予約や他の行事との兼ね合いで今後変更の可能性もあります。
※例会日程等の詳細は、PEKA発行のニューズレターやHPでご確認ください。

 

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■■■例会報告////////////////////////////////////////【2021/09/18@Zoom】


10月のテーマ <教科書と教師のメタ言語> 司会 姫田麻利子さん

会の冒頭、司会の姫田さんより一つの資料が提供された。そこには、架空の言語とそのフランス語訳が書かれている。
それぞれの言語で書かれた6つの短い文が並べて提示されており、「空欄になった箇所に入るべき文を見つけましょう」というテレビのクイズ番組のような状況に参加者はいきなり放り込まれた。
まずは10分程度の時間を用いて、参加者ひとりひとりが、フランス語をもとに架空言語の法則を見つけるべくこの資料を観察した。その後、「この言語を学習者に説明するために、どのような言葉を用いるか考えましょう」という姫田さんの指示のもと、3名ほどのグループに分かれて話し合った。

あるグループの答えはこうだった。
「教師が説明をすることをせずに、今自分たちがしているのと同じことを学習者にさせる。すなわち、まずひとりひとりの学習者に資料をじっくりと観察させる。その後グループになり、言語の規則をいくつかまとめさせる。そしてクラス全体でそれらの規則を発表させリストにする。全員がその規則に納得したら、再びグループに戻って、見つけた規則を自分のものにするために、今度は学習者に例文をいくつか書かせ、そして発表させる。教師はこれらの活動を補助する役割を果たす。」
この意見に賛同する参加者が多かったが、さらに別グループの意見として「定冠詞・不定冠詞の違いは日本人学習者には難しいので、教師の説明が必要ではないか」という声もあった。
グループによっては、架空言語の謎解きに終始してしまうグループもあった。
これに関して、「提示された資料の印象が強くてそちらに捕らわれてしまう」「各自で資料の謎解きをしていた時間から次のグループワークに移るに際して司会者の『説明』が足りなかったのでは」という声があった。
図らずもここで露呈したように、PEKAでは「説明の仕方」について考察されることがあまりない。例会の話し合いは「このことを教えるためにどのような作業をするか、どのように授業を展開するか」にフォーカスを絞って進むことがほとんどである。先ほどのグループが提案した架空言語を教える方法も、授業の展開の仕方であった。
そうではなく、「規則をどのような言葉で説明するか」という点についてはPEKAで取り上げられることが少ないのではないか。そのような思いから、司会者の姫田さんは今回のテーマ「メタ言語」を選んだということだ。なお、姫田さん自身はメタ言語の専門家ではない。

まず姫田さんはメタ言語についての2つの定義を紹介した。
1)1つは、いわゆるMETALANGAGEと呼ばれるものであり、「自然言語を説明するための言語」「言語についての言語」「言語を分析するための言語」、教育学的には「学習者や教員が用いる、文法等の学習に関する言語」である。
2)もう1つは、METALINGUISTIC AWARENESS「メタ言語能力」という概念に関連するものである。「メタ言語能力」とは「言語の構成要素の機能や言語同士の共通点・相違点への洞察力や意識的な学習ストラテジー」であり、「他の言語文化の尊重と外国語学習の基盤づくりの活動」へとつながるものである。METALANGAGEと関連はあるが指示する概念は異なっている。1970年頃から母語教育やバイリンガリズムとの関係で研究が盛んになっている、ということである。
姫田さんによると、本例会で最初に行った活動は上記1と2が混ざっている。すなわち、自分の知っている言語から知らない言語にアクセスするため2の「メタ言語能力」をフルに活用した。そうすることによって得た言語に関する知識を、学習者に伝える言語が1の「メタ言語」である。

1のメタ言語についてより深く考察するため、姫田さんはFLEの古典と言える以下の本を紹介した。
FRANCINE CICUREL, PAROLE SUR PAROLE : LE METALANGAGE EN CLASSE DE LANGUE, CLE INTERNATIONAL, 1985.
CICURELはまず、METALANGAGEとは「言語を対象とする言語活動」と定義する。その上で、教室と外の世界をなるべく近づけることを理想とする教授法にあっても、教室には独特のきまりや参加の約束事があることを、教師・学習者間のディスコース分析をすることにより描写し、クラスの現実を捉えようとした。
CICURELは教師の3つの役割、すなわちINFORMATEUR(知識の伝達)、ANIMATEUR(指示、管理)、EVALUATEUR(評価)を確認した上で、それぞれの場面で教師が使用するメタ言語を分析した。
例えば、語義を伝えるためには「言い換える」方法や「定義する」方法が、文法については「規則を言うより例をあげる」方法や「抽象的な文法用語は使わない」方法があるということを、具体例とともに紹介している。
姫田さんが感じているのは、PEKAの中では、ANIMATEURとしての教師の役割について頻繁に論じられるが、INFORMATEURとしての役割についてはあまり論じられないのではないか、ということである。
「知識の伝達の仕方」を皆で共有できないか、というのが本例会の趣旨であるということだ。

そこで姫田さんは、「間接目的補語人称代名詞をどのように説明しますか」というテーマを提案した。
姫田さん自身、教えるのが難しいと感じている文法事項であるという。英語との比較で教える方法を姫田さんが紹介したところ、「よけいに難しくなる」「フランス語はフランス語でシンプルに教えたほうがいい」という声が上がったが、姫田さんには英語学科の学生に教えているという事情もあった。
そして、各参加者が授業で行っている方法を報告した。
まず、英語で書かれたフランス語の教科書にあったという、ある方法が紹介された。その方法によると、直接目的補語・間接目的補語人称代名詞を学習する前に以下のような練習問題に取り組む。
JE VOIS ( ) MES AMIS.
JE PARLE ( ) MES AMIS.
JE CHERCHE ( ) MES AMIS.
JE TELEPHONE ( ) MES AMIS.

カッコに前置詞Aが必要かどうかを考えさせることにより、直接目的補語と間接目的補語の違いを学習者に理解させるという方法だ。
動詞の使い方から入るこの方法は非常に効果的であるということだ。
他にも、間接目的補語人称代名詞を教えるためのいくつかの方法が参加者から紹介された。

- フランスで出版される教科書によくある方法だが、未学習の時点で、ANTICIPATIONとしてJE VAIS LUI PARLER などと授業の中でさりげなく使う。文脈があればLUIが何を指しているかはわかる。文法として教科書に登場したときにきちんと教えると「あのときのLUIはこれか」と学習者は納得する。
知らないものの規則を覚えさせられるよりも、なんとなく知っていることを後でまとめるほうが、学習者にとって負担が少ないし理解もしやすい。
この方法に対して、様々な反応があった。「教科書を作る立場としては、フランス語として自然な表現を取り入れたいという思いがありながらも、使用する教師によっては未習事項が混ざることを嫌がることもあり、バランスを取るのが難しい。」
「教科書の縛りから離れて、自然な文脈の中で使えるようになってから文法の説明を聞くと、学習者は納得ができるのではないか。例えば、間接目的補語人称代名詞をまったく知らなくても CA ME PLAIT, CA TE PLAIT ?, CA LUI PLAIT(とその否定形)は使えるようになる。その後で動詞を変えて JE LUI TELEPHONEをやればいいのではないか。」といった意見である。
- 直接も間接もまとめてME, TE, LE, LA...と呪文のように覚えさせる。深入りはしないで、文中に出てきたときにここに戻ってきて確認しようと言う、という経験も紹介された。

その後姫田さんは、2つの教科書における間接目的補語人称代名詞の説明の仕方についてグループで話し合いコメントする、という活動を提案した。取り上げる教科書は『アクティヴ! 1』(白水社)と『マエストロ1 実践フランス語 初級』(朝日出版社)である。
グループで話し合った結果、それぞれの教科書について以下のようなコメントが集まった。

◆『アクティヴ! 1』
- 直接目的・間接目的を表にして同時に提示する、非常に古典的なつくり。
- 表と練習問題の順番を逆にして、表を最後に持って行きまとめにするといいのではないか。
- 導入の文の内容が難しすぎる。これをもとに学習者は表を完成させられるのか。
- コミュニカティブという体裁を取っていながら、大量の文法事項を一度に提示している(最後の課のためか)。

◆『マエストロ1 実践フランス語 初級』
- 教科書の中で、直接目的補語人称代名詞が出てくる箇所(24課中の第8課)と間接目的補語人称代名詞が出てくる箇所(同第15課)が離れているのが親切。
- 間接目的補語とは何か、という説明がとてもシンプルでよい。LUI, LEURの表がミニマムなつくりなのもよい。
-LUI, LEUR のみ学習対象となっているが、1・2人称は同時に学習しなくていいのか。
- 説明がわかりやすいのはいいが、LUIは強勢形もある等の説明、または人称代名詞のまとめのようなものがないと、知識がバラバラになってしまうのではないか。
- 文を観察し LUI, LEURが何を受けているかを考えさせるステップがある。一般的な練習問題の前にこれがあることにより、教科書の順番どおりに学習すれば自然に理解できるようになっている。

両方の教科書に共通するコメントとして、「練習問題の数が少なすぎる。最低で5問(automatismeをつけさせるため)最高で12問(これを超えると飽きる)の練習問題数が基本」という意見もあった。

さらに、間接目的補語人称代名詞を教えることが困難である一般的な原因として以下の点が挙げられた。
- コーパスが少ない。
- 教科書の例文が人工的であり自然ではない。
- LUI, LEURは人しか受けない、肯定命令文の場合は動詞の後に来るなど、正確に説明しようとすると細かい追加事項が多く、どこまで説明すればいいのかわからなくなる。
- PENSER A...はどうするのか、CE LIVRE EST A MOIのA MOIは間接目的か、JE PARLE DE PIERRE A MARIEのDE PIERREは間接目的ではないのか、「間接目的補語」という概念自体が曖昧なのではないか。

最後の指摘に対しては、「初学者相手の授業では、間接目的の定義をするのが目的なのではなく、LUIとLEURが使えるようになるのが目的」「『前置詞A +人』をLUI, LEURという短い形に出来るということがわかればよい」
「言語学的な説明と学習者にわかりやすい説明とを分けなければならない」といった声があがった。

最後に、「間接目的補語人称代名詞をどう教えるか」という今回姫田さんから出されたテーマに対して、各自の思いが語られた。
-「全部教えたい」という欲求と「ここだけに絞らねば」という教育的配慮との間でいつも悩んでいる。
- ME, TE, LUI...と全部教えたくなるが、それは教師の都合でしかない。動詞の活用なども同様で、実際にはあまり使わない人称もまとめて出して教えたことにすれば教師は楽だが、それでは学習者が自然に言葉を身につけていくリズムとは合っていないのではないか。
- 説明をして終わり、では教えたことにならないのではないか。学習者がそれを使えるようになったかを確認するまでが教えることではないのか。
- 教師である私たちが、いま新しい外国語を学ぶべき。
- 前半で論じられた「メタ言語能力」についてだが、教師が一つの外国語しか知らないと、学習者が別の外国語の影響でミスを犯した場合に、そのことに気づき正しい誤用訂正へと導くことが出来ない。教師にとってもメタ言語能力は重要である。
- 教科書に書いてあることは、学習者も説明して欲しいと考えるし、教師も説明しなければいけないと考えてしまう。オーラルで進めるANL (Approche neurolinguistique) ではそのようなことはなく、まったく知らない文法を使っていても文脈で意味がわかるというのがあり、LUI, LEURもなんとなく吸収されていくというのは自分にはやりやすい。
- 間接目的をCA ME PLAIT. で教えるという話があったが、教科書を作っている立場からすると盲点だった。PLAIREは動詞として重要語彙の中に入らないし、また表現が口語的なこともあり、文法の教科書にそれを導入するのは難しい。学習者の納得と教科書というスタイルの両立について考え直すきっかけとなった。

報告者はこの4〜5年ほどPEKAの例会に参加しているが、一つの文法事項の教え方についてここまで議論を尽くす場面に出会うのは初めてである。言語をどう説明するか、その「説明の仕方」に教師としてさらに意識的になるための刺激を大いに受けた。
(mk)


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