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NO.177

 

 

「ECRITの位置づけ」

*2019年度年間テーマ:
「成長する教師」


05/09/2019

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     PEKA (ペダゴジーを考える会) News Letter no.177
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■□■ 次回例会のご案内 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
日時:2019年 9月14日(土) 14:30 〜 17:30 
会場:順天堂大学 本郷・お茶の水キャンパス 第2教育棟402教室
アクセス:
https://www.juntendo.ac.jp/albums/abm.php?f=abm00029637.pdf&n=順天堂大学案内図.pdf
御茶ノ水、新御茶ノ水、水道橋の各駅から徒歩で10分ほどです。

*どなたでもご参加いただけます。参加費は無料です。
*2019年度年間テーマ:「成長する教師」
*9月の例会テーマ :「ECRITの位置づけ」

* どなたでもご参加いただけます。参加費は無料です。

■□■ 2019年度例会日程 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
メモをお願いします。

2019年4月20日、6月15日、9月14日、10月19日、12月14日、2020年2月8日。
いずれも土曜日の14時30分 〜 17時30分ですが、会場の都合により時間が変更になる可能性があります。
また、開催場所については,例会ごとに案内をご確認ください。

 

 

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■■■例会報告////////////////////////////////////////////////////////////
======【2019/06/15 14h30-17h30 @仲宿地域センター】

 例会テーマに入る前に、EDFJバックナンバーについて、現在、号によっては約50部もの残部があり保管する人の負担になっているので、これを整理したいという議題が出された。これに対し、来年のスタージュのために今年の号を20部ぐらい残しておくとして、あとは数部ずつ残せばいいのではという意見や、PEKAのHPにアーカイブがあるのだから、ゼロにしてもいいのではないかといった意見が出た。
ゼロにすることに反対意見はないので、今後は希望する人には送料自己負担で郵送してあとは処分をする、さらにこの内容をHPに載せメーリングリストにも流す、ということになった。

◆ 例会テーマ:「教授法の歴史〜実践編〜」

 前回の例会で、「教授法の変遷について、スタージュ等で学んだ知識はあるが、実際の授業がどのように行われていたのかを具体的に知りたい」という意見があり、本例会のテーマが上記のように決められた。
まずは例会前にメーリングリストで呼び掛け合い、各参加者が自宅にある古い教科書を当日持参した。主に出版年が1950年代から1980年代の教科書数十冊が卓上に並べられた様子は、学習者および教師としての各人の歴史を感じさせるものであり、なかなか壮観であった。これらの教科書を単に参照するのではなく、これらを使って実際に授業を行う、そして、この方法は今も使える・今は使えないといったことを、教える立場からも教わる立場からも考えていこう、というのが本例会の趣旨である。
参加者は2人1組のペアになり、それぞれの教科書について1組ないし2組が模擬授業を行った。

◇COURS DE LANGUE ET DE CIVILISATION FRANCAISES I (1953)
通称MAUGER BLEU。教科書付属の音声はない。
本教科書にはPOUR L'ADAPTATION DE NOS LECONS A LA CLASSE VIVANTEと題された教師用の簡略なマニュアルのようなものがあり、模擬授業はおおむねそれに沿った形で行われた。すなわち、
- 教科書は閉じた状態。
- 学習者を一人ずつ指し示し、男女に応じて、UN HOMME, UNE FEMME, UN HOMME...と教師が明瞭に言う。一人の学習者を指し示し、他の学習者にQU'EST-CE QUE C'EST ? と訊き、UN HOMMEまたはUNE FEMMEを言わせる。
- 学習者にペンと消しゴムを見せ、UN STYLO, UNE GOMME...と教師が明瞭に言う。ペンまたは消しゴムを見せ、一人の学習者にQU'EST-CE QUE C'EST ? と訊き、UN STYLOまたはUNE GOMMEを言わせる。
- 教師が、C'EST, UN, STYLO を区切りながら明瞭に言う。この時点ではC'EST UNのリエゾンはせずに発音。C'EST UN STYLOを一息に言うとリエゾンが生じることを、身振りなども使いながら説明。学習者に繰り返させる。

文字がない状態でリエゾンが理解できるのか、といった疑問があがったが、早口で言うときには母音が続くよりもtが入ったほうが言いやすいということは理解できるはずだ、という意見があった。
POUR L'ADAPTATION DE NOS LECONS A LA CLASSE VIVANTEで示されているのは、METHODE DIRECTEと一般的に呼ばれる教授法である。
これは、フランス語のみを用いて(つまり学習者の母語を用いずに)フランス語を教える方法であり、文字よりも音声・発音を重視、また文法は帰納的に導入するという特徴を持つ。この方法は、子供が自然に言語を習得するときのようにまず音声から入るというものであり、その点が優れているという意見があった(ただし、同じMAUGER BLEUで、学習者の母語を用いた文法・翻訳の授業を行うことも可能である)。
問題点としては、LECON 5あたりまで名詞がとにかくたくさん出てくる、しかも話者(自分と相手)の事を話題にしないので、学習者は単調さに飽きてしまう、といったことがあげられた。また教師の視点からしても、C'EST, UN, STYLOを繰り返すのは疲れるのではないか、という声もあった。MAUGER BLEUを学習者として使用したがこの教科書で話せるようにはならなかった、という経験も語られた。

◇FRANCAIS PREMIER LIVRE BERLITZ (1961)
世界各国で語学学校を展開するベルリッツの教科書。今回取り上げた教科書の中で唯一、参加者の誰も(学習者としても教師としても)使用したことがない教科書だ。持参した参加者の説明では、おそらく家族が使っていたものだろうということだった。390e EDITIONとあり、かなり長く・広く使われた教科書であることが窺われる。
模擬授業をするペアは、強い英語訛りでフランス語を話す教師を演じて参加者の笑いを誘った(実際のベルリッツで授業を行ったのはフランス語ネイティブの教師だった可能性が高い)。教科書付属の音声はなく、教師が言うことを学習者に繰り返させるという形で模擬授業は行われた。QU'EST-CE QUE C'EST ? C'EST LE LIVRE. LE LIVRE EST ROUGE. / EST-CE LE CRAYON ? OUI, C'EST LE CRAYON. LE CRAYON EST VERT. といった文が続くのだが、内容が不条理に感じられ、教師も学習者も疲れるのでは、というのが模擬授業をやった参加者の感想だった。
読ませて、書かせて、練習問題をやらせて、といった学習法であれば普通に使える教科書なのではないか、という意見もあった。また学習事項の進みが速いのではという声があったが、ベルリッツに行く学習者は、フランス語がすぐに必要であり、費用をかけてでも短期で習得したいような人が多いのではと想像された。

◇LE FRANCAIS ET LA VIE (1971)
通称MAUGER ROUGE。METHODE AUDIO-VISUELLEの考えに添った教科書。この方法では、教科書に加えて、FILM FIXE(フィルム状のスライド)とBANDE MAGNETIQUE(オープンリールのMAGNETOPHONEで操作)を教師が使用する。
教科書を開くと、左ページに10のイラスト(FILM FIXEで教室に映写可能)、右ページに対応する10の文がある。
模擬授業は、学習者にイラストのみを見せた状態で、
- 手で男性を指し示すイラスト:VOILA MONSIEUR ROCHE.
- 大まかなパリの地図、その中に家があり、その家の中に男性が座っているイラスト:MONSIEUR ROCHE HABITE A PARIS.
といった対応する文を学習者に聞かせ、それを繰り返させた。問題点としてあげられたのは、イラストだけを見て内容を理解するのは難しいから、ジェスチャーや演技を用いて教師が教える必要があるということであった。また、本来は学習者に10の文の意味を理解させるのが先で、繰り返させるのはその後ではないかという指摘もあった。
教師としてMAUGER ROUGEを使った経験も語られた。まず、教師は自分でフランス語を話すのではなく、学習者にはテープを聞かせなくてはいけないことになっている。正しい発音を正確に学ばせるという目的があるのだろうが、教師は黙っていなくてはいけないのがストレスになるという。
逆に、教師として使いやすい教科書だったという意見もあった。聞く・繰り返す・覚えるを続けた後、テープを止めながら学習者を一人一人あてて、MONSIEUR ROCHE HABITE A PARISと言えるようになればいい。また文法は次のページにあり、展開はその段階でやればいい。教師は授業の進め方についてあまり考える必要がなく、スライドとテープをうまく使えさえすれば授業が出来た、ということだ。

◇DE VIVE VOIX (1972)
CREDIF (CENTRE DE RECHERCHE ET D'ETUDE POUR LA DIFFUSION DU FRANCAIS, 1959 年創設、1996年解散)が開発したMETHODE AUDIO-VISUELLE (SGAV METHODE STRUCTURO-GLOBALE AUDIO-VISUELLE) の教科書。前述のMAUGER ROUGEとほぼ同じ時期に使用されていた。付属のFILM FIXEとBANDE MAGNETIQUEがあるが、特徴的なのは、教科書にあるのはコマ割のマンガのようなイラスト(FILM FIXEで教室に映写可能)のみで、音声に関する文字情報がないという点である。
模擬授業では、イラストを1枚ずつ見せ、対応する音声をMAGNETOPHONEの代わりに声で再現して学習者に聞かせ、復唱させた。
- 街中で女性が転びそうにしているイラスト:ATTENTION, MADEMOISELLE.
- 女性が男性に話しかけるイラスト:MERCI MONSIEUR.
- 男性が女性に話しかけるイラスト:JE VOUS EN PRIE.
これらの文を何の説明もなしに繰り返させるだけでは、学習者はやはり戸惑ってしまう。そのため例えばATTENTIONの意味をジェスチャー等で伝えようとしていた教師役のやり方が評価された。また、ただ単に繰り返させるだけではなく、学習者の声をよく聞き、発音矯正が必要であればするべきであるとの指摘もされた。
このDE VIVE VOIXに関しても、実際の教授経験が語られた。ある参加者によると、この教科書を使って教えるためには2週間の実習を受ける必要があったという。理論と実践を学ぶためにプロの教師から特訓を受けたが、このトレーニングがその後のフランス語教師としての基礎となったということだ。
また当時の日仏学院でこの教科書は使われていたが、ネイティブの教師もテープを使って授業をしていた。教師の声と学習モデルの声を分け、何を学習するべきなのかを明らかにするためであった。その頃受講者であった漫画家の黒鉄ヒロシ氏が、教科書の絵をユーモラスに描きかえて楽しんでいた、などというエピソードも語られた。

◇C'EST LE PRINTEMPS (1975)
CLA (CENTRE DE LINGUISTIQUE APPLIQUEE DE BESANCON, 1958年創設、現在に至る) が開発したMETHODE AUDIO-VISUELLEの教科書。
模擬授業は、教室内の参加者を指し示しながら、IL, ELLEの使い分け、JAPONAIS, JAPONAISE, FRANCAIS, FRANCAISEの使い分けを促す、といった形で行われた。
C'EST LE PRINTEMPSに関しては、教師あるいは学習者としての使用経験が多数語られた。まずこの教科書は、前述のDE VIVE VOIXを批判し、学習者がより自立的に学習することを目指し作成されている。教える側にとっても、DE VIVE VOIXに比べてC'EST LE PRINTEMPS はより自由だったという証言もあった。基本的にはMETHODE AUDIO-VISUELLE (聞いて繰り返す)に則った教科書であるが、この後に来るAPPROCHE COMMUNICATIVEの考えが入ってきている、過渡期の教科書なのではないかという指摘があった。
内容についても、DE VIVE VOIXがブルジョア的な世界観であるのに対し、C'EST LE PRINTEMPSにはマグレブ系や職探し中の人などが出てきて、当時のフランス語教科書としては斬新だった、という声があった。初めて日本人が登場したフランス語教科書もC'EST LE PRINTEMPSであるという。
使用されている表現も、それまでの教科書にあった規範的なものではなく日常で普通に使われるような表現だったという意見や、語彙や表現が繰り返し使われていて自然に覚えられるのがよかった、教科書全体を見ると言語的なPROGRESSIONが明確だった、といった意見も聞かれた。

おわりに
例会の中で行った模擬授業は、準備時間が限られていたこともあり、教科書が想定している教え方にはならない場合もあった。例えばC'EST LE PRINTEMPSに関して、本来この教科書が意図しているのは文法理解を前面に出した教え方ではない、という指摘が例会後に聞かれた。
今回扱った教科書は主に1970年代までの教授法に基づいて作成された教科書であった。1980年代に台頭してくるAPPROCHE COMMUNICATIVEの教科書についても同様の例会を持つことが出来れば、と報告者は個人的に考える。
また、本例会において過去のさまざまな教科書を実際に目にし、それをいかに使うかを考察したことは、現在自分が教師として使っている教科書とその使用法を客観的に捉え直すよい機会となった。
(M.K.)




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