Pékaトップページ       過去ニューズレターMENU    

 

NO.109

 


7/6/2008

┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏

     PEKA (ペダゴジーを考える会) News Letter no.109

┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏┏

■□■ 次回例会のご案内 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
日時:6月21日(土)14:30〜17:00
上智大学 2号館地下2階 CALL-B教室

*会場が、いつもと異なります。ご注意ください。
*どなたでもご参加いただけます。参加費は無料です。

1.<映画を、どんなactiviteに活用しますか?>
短編映画をフランス語の授業でどんな風に活かせるか、アイディアを出し合いたいと思い
ます。この映画でこのactivite、みなさんの方法を教えてください。
(田中幸子、土屋良二、姫田麻利子)

2.<さて、司会者のやりたかったことはうまく伝わったでしょうか>
今年度の年間テーマについて確認しながら、それを実践します。次回も発表後に時間を取
り、「司会者の種明かし」と「参加者の受け止め方」について話し合う時間を設けます。
*NewsLetter no.108および下記4月例会報告を参考にしてください。

上へ

■■■【4/19例会報告】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<中級>学習者の年度始め授業を考える
〜神谷貴美子さん 各務奈緒子さん

今回の例会は、従来の例会と大きく違っている点が一つありました。それは、第2部
として発表者の意図およびその伝え方に関する議論の場が設定されていた点です。
例会は二部構造になっていました。
 第1部:発表(予定時間:2時間)
第2部:発表の形式面(意図・構成・効果など)に関する意見交換
(予定時間:30分から1時間)
発表の後、具体的には以下のような問いが意見交換の対象として準備されていました。
○意図:発表者がその発表をしようとしたその意図、その思いは何だったのか。(発表者
の種明かし)
○構成:その思いを伝えるために発表は効果的に構成されていたか。
○効果:発表者の言いたいことはうまく伝わったか(=参加者の受け止め方)。もし伝わ
らなかったとしたら、何故か。

ただし、以上のような例会の枠組みとコンセプトについて、参加者全員が同じことを
理解していたわけではなく若干の混乱が生じました。特に、第一部において発表内容に
ついて議論がすでに白熱しかけた時、それを第2部へ送ろうとする人と、通常通りの議
論の過程は飛ばすのかと問う人とのやりとりで進行が紛糾する場面がありました。しか
し、最終的には、第2部で発表の形式面に関するメタ・ディスクール的な議論も活発に
行なわれ、「発表者は何を伝えたか」だけでなく、「何をどういう意図をもってどのよう
な構成のもとに伝えようとしたのか」について参加者全員で考えられたのは非常に有意
義でした。発表の内容そのものが実際の授業運営を考えるうえで役立ったのは言うまで
もありません。神谷さん、各務さん、どうもありがとうございました。
以下、例会の模様を記します。

◆第1部(14:40 - 16:50)
1)<中級者>と<年度始め>という言葉の定義:<中級者>=基本的なことを学んで
いる(主に)2年生、<年度始め>=前期、後期関係なく1回目の授業

2)「<中級>学習者の年度始め授業を考える」というテーマを選んだ理由の説明:
発表者自身が感じた「とまどい」を解消したい。(どんな人がいるのか?どんな学習法で
学んできたのか?どのような学習態度で授業に臨んでいるのか?すでにどれだけ知って
いるのか?など)

3)先行研究の紹介:「授業の引継ぎ」(土屋良二,EDFJ,2001)、「年度始めにおける
文法項目の達成感に関する調査」(井上美穂,EDFJ,2001)

4)「持ち上がりでなく引継ぐ場合や、新しいクラスの場合、年度始めに感じる困難は
何か」についてグループディスカッション(10分)、発表。参加者の中に教授経験のな
い学生が一人いたが、学生の立場から発言するように促された。「困難」として以下のよ
うな点が提出された。
 ペース設定
 苦手なところが分からない。4技能のバランス。
 雰囲気
 学生間のレベルのばらつき。間違ったクラス分け。
 話せるが文章の構造(文法)が分かっていない学生が来なくなる。
 教師間で伝えているメッセージが異なっている場合がある。
 教師と学生における学習到達度の認識の違い。
 学生間における到達目標の違い。

5)対策1:アンケートを作る。アンケート項目には何を入れるか、グループディスカ
ッション。(アンケートをする意義を疑問視する意見もあり、そのことについてここで議
論をするかしないか、紛糾。結局、司会者の意向通り意見を出し合いましょうというこ
とになり)以下のような項目が提出された。
 フランス(語圏の国)に行ったことがあるか。
 フランス(語圏の国)に友人がいるか。
 この授業を通して何ができるようになりたいか。
 留学を希望するか。
 将来、どんな仕事につきたいか。
(自由形式のアンケートで)先生に知ってほしいこと。
 フランス語のどこが難しいか。
 フランス語のどこが好きか。
 どういった授業活動が好きか。
 どういうふうに名前を呼んでほしいか。
 どういうことをやりたいか、やりたくないか。
 なぜフランス語を続けているのか。
 フランス人のどういう人を知っているか。
 フランス語の学習に費やせる時間はどれくらいか。
 フランスのどういうところに興味があるか。
 1年生のときにどういうふうに勉強したか。(予習と復習、どちらに力を入れたか。
 宿題は家でやったか。CDは聴いたか。)
 なぜこのクラスを取ったか。

6)対策2:アクティヴィテを取り入れて自己紹介する(させる)。発表者の想定する
このアクティヴィテの意義 1.学生同士が知り合う。2.教室の雰囲気作り。3.文
法の習熟度のチェック。3.授業参加態度のチェック

休憩 16 : 50 - 17 : 00

◆第2部(17:00-17:35)
1)司会者の意図(裏テーマ)の説明。どういうことを伝えたくて、これをやったか。
「グループディスカッションすればPEKAという風潮」を再検討するのが目的。そして、
神谷さんと各務さんは「私たちがPEKAに言いたいこと」として以下の点を挙げた。
○ 発言する人がいつも決まっている。そこで、普段あまり発言しない人にも意見を聞き
たいと思った。たとえば、授業経験のない人にも学生の視点から意見を言ってもらうよ
うに促した。また、グループディスカッションのときはメンバーを代えようとした。し
かし、焦ってしまってあまりうまくできなかった。
○話しかけたいのに話しかけられない。もっと触れ合いたい。

2)第1部の発表のやりかたについて、以下のような意見が寄せられた。
○「対策を探る」の2番目として「アクティヴィテ」があることを最初に提示していた
ら、アンケートをめぐる議論での混乱は避けられたのでは?
○遅れてきた人は前に座らせればよかったのでは?(しかし、部屋が狭くて無理?)
○グループ分けの仕方が _ directif _だと思った。
○ハンドアウトに最初から解決策を提示しておかなったのはよかった。
○議論が本来の目的から脱線したときは司会者にとめてほしかった。
○ 教師は意見・意図・やりたいことは明確に持つべきであり、それらをどのように伝え
るのかが「構成」の問題である。自分のもって行きたい方向にいかに _ directif _するか。
○「付け加えることはありますか?」などともう少し意見を聞けばよかった。

最後に、発言のなかった(少なかった)人に意見や感想を述べてもらいました。
○発言しにくいという感じはしなかった。
○怖い雰囲気はなかった。
○「今日はびびった」
○新しく来た人にとって望ましい会を作る必要あり。
○第2部のテーマについてよく分からないまま出席していた。
○発言量に個人差が出るのはある程度やむえないにしても、「新入生」が話そうと思った
ときに話せる雰囲気になっているかは重要である。
○よくまとまっている発表で、議論の運び方と構成が素晴らしかった。

◆個人的感想)
参加者同士の議論を聞いていて、寅さんではないが「それを言っちゃあおしめえよ」
と何度か思った。アンケートの必要性に関する議論のときは特にそう思った。アンケー
トというものがそもそも必要かという問いは確かに本質的である。しかし、「初回の授業
における困難を解消する手段として私はアンケートというものがあると思う。そのアン
ケートの項目としてはどのようなものがいいだろうか」という「思い」を司会者が<ど
のように>伝えようとしたか、あるいはその「思い」は伝わったかを議論するのが今回
の例会の目的であったするならば、「そもそもなぜそんなことを思うのか」と疑問視する
ことはあまり意味がないばかりか、議論の場そのものをぶち壊しにしてしまうのではな
いだろうか。参加者の一人が _ jouer le jeu _という表現を用いたのが個人的には忘れら
れない。
(M.K.)


上へ

■□■ 出版物紹介 □■□■□■□■□■□■□■□■
G. ZARATE, D. LEVY, C. KRAMSCH監修
PRECIS du PLURILINGUISME et du PLURICULTURALISME
Editions des archives contemporaines, 2008, 440p.
『複言語・複文化主義ハンドブック』と言っても、欧州評議会の言語政策や、その理念
と現場をつなぐ『欧州共通参照枠』(CEFR)についての概説書ではありません。むしろ、
そこからこぼれた思考のコレクションです。
CEFRは1971年来行われてきた研究の最新の成果と言われますが、とくに90年代以降
の問題意識に関してはすべてを盛り込んではいません。できるだけ広い範囲の確実なコ
ンセンサスをねらうには、必要な線引きだったと思います。少し前まで<コミュニケー
ション能力>概念に抵抗していたのに、いまCEFRを福音のように語る人も見かけます
から、巧みな線引きだったと言えます。
ただし、外国語教育研究は、もうその線の内側の概念だけでは不足な領域まで視野を広
げ始めています。たとえば「学習者」という用語は主体的に学ぶ者を示すのに正しいは
ずだったけれど、彼らを学びに閉じ込めていいか?という問いで、この用語の使用をた
めらうことがあります。「ネイティブスピーカー」の役割を強制されてうんざりしている
同僚も多いです。今日のひとびとの実質的な移動、象徴的な越境と言語習得形態の多様
化に照らし、既存概念の再定義や新概念の検討へ動きだしています。
そうした再定義や新概念の活用提案は、すぐにローカルなコンセンサスを得られないと
しても、遠くに共鳴する同僚がもういるかもしれない。本書は、この点に賭けているの
だと思います。
編者3人は、起案から5年以上費やし、欧州に限らず、北米、オーストラリア、アジアの
教員、研究者に呼びかけて、新しい回路を導く考察を集めました。全8章の章題
はそれぞれ、学習者から話者、行為者へ/自分と言語/移動と経路/所属と社会のつな
がり/イメージ、言説、文化的表象/言語についての言説と社会的表象/制度と権力/
歴史、実践、模範で、各章は、章題についての解説と、関連領域の実証的考察を6〜7
つ、議論を閉じないための総括コメントから成っています。
本書の目次は、以下で見ることができます。
http://www.inalco.fr/IMG/pdf/PagesPreliminairesPrecis.pdf
姫田麻利子

*ルビュ「言語文化教育」248号
http://archive.mag2.com/0000079505/20080425070000000.html
掲載の紹介記事を、少しだけ修正して転載しました。


       

上へ


Pékaトップページ     過去ニューズレターMENU